ぼんやりとする意識の中で、一磨さんから借りたシャツに袖を通す。
わたしの膝近くまでになる大きなシャツ。
広いシャツの肩幅にドキッと胸が高鳴った。
「詩季?着替えた?」
「あ……うん……」
キィ、と遠慮がちに扉が開き、一磨さんが顔を出す。
「これ……身体、拭いた方が良いから」
彼の手には固く絞ったタオルがふわりと湯気を立てて乗せられていた。
「ありがとう……」
けれど、起き上がっていたせいか熱が上がったようで、頭がふわふわとして動けない。
「詩季?」
心配そうに近づいてきた一磨さんの手がわたしのおでこと首筋に添えられ、わたしは目を閉じる。
「……熱いね」
「ん……」
「自分で拭ける?」
熱に浮かされて意識が朦朧としているせいか、そのせいでいつもより大胆になっているのか……
一磨さんの問いかけに、わたしの口からはこんな言葉が発せられた。
「……拭いてもらっても、いい……?」
「えっ」
「……だめ?」
わたしの言葉に、彼は耳まで真っ赤にして一瞬言葉を失う。
横を向いて目を伏せた一磨さんは、フウッと息を吐くと、そっとベッドのふちに腰かけた。
「背中……向けて」
おずおずと背中を向けると、シャツの裾が少しめくられる。
「あ……」
温かいタオルの感触に、小さく声を漏らすと、ビクッとタオルを持つ手が揺れた。
少しの間の後、ゆっくりと背中をタオルが移動していく。
(気持ちいい……)
「……どう?」
「ん……」
目を閉じて身を任せていると、一磨さんの手が何かをためらうように止まった。
「詩季……あの……外せる?」
「……え?……あ……」
彼の言おうとしたことに気づき、わたしは背中に手を回して、下着のホックを外した。
胸元の圧迫感がなくなり、何となく落ち着かない。
それは一磨さんも同じようで、わたしは布団を胸に抱きしめて、気になっていたことを聞くことにした。
「さっきの電話……山田さん?」
「ん?……ああ。そうだよ」
「連絡してくれたの……?」
「うん」
「何か……言われなかった?」
「大丈夫だよ。……詩季を頼むって言ってもらえたから」
「……山田さんが?」
驚いて振り向くと、一磨さんの手がビクッと引っ込んだ。
振り向いた瞬間に、わたしの脇に手が当たったからだ。
「……詩季……前、向いて」
「えっ、あ……ご、ごめん……」
顔を真っ赤にした一磨さんは、少しはだけていたわたしの襟元を押さえながら横を向いた。
「……山田さん、わたしたちのこと……怒ってない……のかな?」
ポツリとつぶやいたわたしの言葉に、一磨さんはフッと笑う。
「怒ってないよ。……明日は仕事を調整するから、ゆっくり休ませてくれって、頼まれたんだ」
(え……山田さんが……?)
「……はい、終わり」
そう言って一磨さんはそっとベッドから腰を上げた。
「ありがとう」
スッと温もりが離れていく感覚に寂しさを感じてしまうのは、弱っているからだろうか。
そっと下着をつけ直してベッドに潜り込む。
「詩季?」
一度、寝室から出て行きかけた一磨さんは、そんなわたしの元へ戻り、心配そうに声をかけてきた。
「……大丈夫?つらい?」
「……ううん……こうしてると……一磨のにおいがするの……」
「詩季……」
照れくさそうに、彼の声が笑った気がする。
「薬を持ってくるから。それを飲んだらまた眠るんだよ」
「……一緒に、寝てくれる……?」
「えっ?」
「今日だけは……ずっと一緒にいたい……」