コトリ。
ふわりと白い湯気の立つカップを2つ、テーブル置かれる。
挽きたてのコーヒーの芳ばしい香りがリビングに満ちて。
静かな部屋の空気に、かすかに時を刻む秒針の音と。
カサッという紙の音が響いた。
「……詩季ちゃん。それ……」
「あ、ありがとう。うん……鶴だよ」
彼の視線の先にあったもの。
それは、キレイな千代紙で作った折り鶴。
丁寧に羽を広げて、わたしはそれを手のひらに乗せた。
「今さらって思うかも知れないけど……千代さんがどんな気持ちで鶴を折っていたのかなと思って」
「…………」
「時には、子どもたちに見せるために。時には、一豊のことを想いながら。そして時には、戦を決する密書を忍ばせて……」
わたしの話を聞きながら、ゆっくりと義人くんはわたしの隣に腰掛けて。
キュッとソファが軋む音を立てる。
「……迷ってる?」
優しい囁きと共に、スッと伸びて来た腕に抱き寄せられる。
その温もりに包まれて、わたしはふっと息を吐き出した。
「……詩季ちゃんは詩季ちゃんの、千代さんを演じたらいいと思う……一豊は……少なくとも俺は、そう思うから……」
「……うん……」
ギュッとわたしを抱きしめる腕に力が込められて。
それに合わせるように、自然とふたりの距離が縮まっていく。
(……ん……)
唇に触れるやわらかな温もり。
そこから伝わる彼の優しさと気遣いに、緊張して強ばっていた心が解けていって。
「……詩季ちゃん」
「あ……」
下りていく唇の感触と共に、夜の帳に熱い吐息が溶けていった。