3

コトリ。

ふわりと白い湯気の立つカップを2つ、テーブル置かれる。

挽きたてのコーヒーの芳ばしい香りがリビングに満ちて。

静かな部屋の空気に、かすかに時を刻む秒針の音と。

カサッという紙の音が響いた。

「……詩季ちゃん。それ……」

「あ、ありがとう。うん……鶴だよ」

彼の視線の先にあったもの。

それは、キレイな千代紙で作った折り鶴。

丁寧に羽を広げて、わたしはそれを手のひらに乗せた。

「今さらって思うかも知れないけど……千代さんがどんな気持ちで鶴を折っていたのかなと思って」

「…………」

「時には、子どもたちに見せるために。時には、一豊のことを想いながら。そして時には、戦を決する密書を忍ばせて……」

わたしの話を聞きながら、ゆっくりと義人くんはわたしの隣に腰掛けて。

キュッとソファが軋む音を立てる。

「……迷ってる?」

優しい囁きと共に、スッと伸びて来た腕に抱き寄せられる。

その温もりに包まれて、わたしはふっと息を吐き出した。

「……詩季ちゃんは詩季ちゃんの、千代さんを演じたらいいと思う……一豊は……少なくとも俺は、そう思うから……」

「……うん……」

ギュッとわたしを抱きしめる腕に力が込められて。

それに合わせるように、自然とふたりの距離が縮まっていく。

(……ん……)

唇に触れるやわらかな温もり。

そこから伝わる彼の優しさと気遣いに、緊張して強ばっていた心が解けていって。

「……詩季ちゃん」

「あ……」

下りていく唇の感触と共に、夜の帳に熱い吐息が溶けていった。



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