一羽、二羽。
増えていく折り鶴の数だけ、あなたに伝えたい言葉があった。
あなたを守れるほど、わたしは強くはないけれど。
一緒に歩いて行くことなら、出来るから。
ねえ。
ずっと側にいてもいい?
カサリ。
手の平に乗せた鶴が一羽。
風に流されて、足元に舞い降りる。
『連続ドラマ 大河「千代紙」 第一回』
画面に映し出されるテロップに、わたしはキュッと手を握りしめて。
それと同時に温かい大きな手が、わたしの握った手を包み込んでくれるのを感じた。
「……義人くん……」
小さくつぶやいて隣を見上げると、チラッと視線をこちらに向けて、フッと微笑む義人くん。
そのまま彼は視線をテレビの画面へと戻す。
そこに映し出されたのは、少女と若き浪人の姿。
『助けてくださって……ありがとうございます』
『大事はなかったか?』
『はい。あの、お礼にこれを』
そう言って少女が差し出したのは、着物の端切れを畳んで作ったと見える、鳥のようなものだった。
『……これは?』
『鶴です』
『鶴か』
受け取った小さな鶴を空にかざして、浪人はフッと笑うと、それを懐にしまった。
『……では』
『あのっ。お名前を聞いても……?』
『名か……名は、伊右衛門』
戦に巻き込まれた少女を助けた若きその浪人は、そう名乗って去って行った。
3ヶ月前。
10月にクランクインを迎えた、大河「千代紙」。
戦国時代から江戸時代前期までを生きた武将で、初代土佐藩主、山内一豊。
そして彼を内助の功で支え続けた妻、千代。
ふたりが歩んだ30年余りの時間を、千の折り鶴と共に追っていく物語。
テーブルの上に置かれた厚い台本をそっと手に取って。
わたしはそこに書かれた「千代紙」の文字を指でなぞった。
このドラマの脚本家。
それは、わたしたちが心を通わせるきっかけとなった、一冊の本を書いた人だった。