16

太陽が顔を出したばかりの早朝に出発して、途中、撮影をしながらの登山。

普通に登れば片道4時間の行程を、7時間かけて山頂に着いた頃には、もう昼になっていた。

「……はぁ……はぁ……」

肩で大きく息をしながら、わたしは見渡す限りの白い山並みに目を向ける。

ここ、十勝岳連峰を含めた火山郡の総称を大雪山系と呼んで。

その面積は神奈川県とほぼ同じなのだと、ガイドさんが教えてくれた。

6月に山開きしたばかりの山々は、残雪が深い場所もあって。

登りの途中も何度か雪の上を歩くことになった。

「詩季ちゃん、お疲れ様」

「あ……一磨さん……ありがとう」

木を半分に切っただけのベンチに腰を下ろして息を整えていたわたしに。

スッと湯気の立つコーヒーの入ったコップを差し出してくれる。

「疲れた?」

「うん……さすがに、ちょっと。でも……一磨さんが一緒にいてくれたから」

わたしの言葉に、彼はフッと微笑んで。

ポンポンと頭を優しく撫でてくれる。

「監督とも約束したし……それに、翼が汐織を守りたいのと同じで、詩季ちゃんを守るのも俺の役目だからね?」

「うん……ありがとう……」

わたしが雪に足を取られれば、手を貸してくれ。

わたしの息が上がってくる頃、休憩しようと声をかけてくれ。

一磨さんはずっと、わたしに寄り添うようにして、ここまでの道を一緒に登ってくれたのだった。

「あ……エゾコザクラが咲いてる」

ふと、彼の足元にピンクの小さい可憐な花が咲いているのに気付き。

これもまた、ガイドさんに教えてもらった名前をつぶやく。

「こんなに小さくても、生きてるんだね」

「ああ……そうだね。俺たち人間と同じように」

「うん……」

言葉にはしなくても、分かってくれる。

今、ふたりが胸に思い描いているのは。

共に生きたいと願い、命を輝かせ、愛を紡いでいくふたりの姿に違いない。

「汐織が、一緒に空を見たいって……その気持ちが分かる気がする」

「……うん?」

「空だけじゃない……澄んだ山の空気も。夏の風も。春、夏、秋、冬……同じものを、空気を、季節を、時間を、感じながら生きていきたい」

「詩季ちゃん……」

夏と冬しかない山の上を彩る、緑と、ピンクと、白と。

たくさんの生きるものの色と、そしてそれを包むように空が広がっている。

高い、青。

ちょうどわたしが視線の先に雲海を見つけた時、少し離れたところにいた監督の声が聞こえた。

「みんな、ちょっといいか?話がある。集まってくれ」

思い思いに小休憩を取っていたわたしたちは、その言葉にさっと集まって。

真剣味を帯びる彼の顔を見返した。

「今、ガイドと話していたんだが。ちょっと雲行きが怪しくなってきた。あそこに雲が見えるだろう?あれが雨を降らせると雪崩れが起きるかも知れん。悪いが、すぐに下山しよう」



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