14

夜空に瞬く星は、それだけで一面の天の川のようで。

わたしはその夜、汐織がそうしていたのと同じように。

車のボンネットにもたれて月を眺めていた。

当たり前のように、そこにあると思っていた未来を。

いつか、好きな人と結婚して。

子供を産んで、母親になって。

ふたりで歳を重ねて。

そしていつか星になったら、光の橋を渡って会いに行く。

そんな、誰もが夢見るようなこと。

突然、それを絶たれたら。

未来を失うかもしれないと言われたら。

わたしは汐織のように強く、孤独と闘いながら生きていけるだろうか。

怖くて、不安で、本当は泣き叫びたい。

嘘だと、全部悪い夢なんだと言ってほしい。

他に何も望まないから。

ただずっと、愛する人と一緒にいたいだけなのに。

どうか神様、お願い。

奇跡を起こして。


「詩季……?」

落ち着いた優しい声が降って来て。

視線を下ろすと、一磨さんが心配そうに眉を寄せる。

「……どうした?」

そう言ってわたしの前で立ち止まると、両手で包み込むように頬に触れる。

その姿がぼやけて見えていて。

初めて、自分が泣いていることに気づいた。

「……離れたくない……」

わたしの中に染み込んだ汐織の想いが重なって。

震える言葉を絞り出す。

それと同時に、溢れた涙がわたしの頬をふた筋、流れ落ちていく。

「詩季……離さないよ」

ギュウッと力強くわたしの身体を抱きしめてくれる、腕の温もり。

存在を確かめるように。

ふたりの鼓動を重ね合わせるように、きつく、きつく。

「詩季のことも、詩季の中にいる汐織のことも……受け止めるから。俺が必ず守るって、約束するよ」

「一磨……ありがとう……」

ゆっくりと少しだけ身体を起こした彼は、ふわりと微笑んで。

涙で濡れたわたしの頬にそっとキスをしてくれる。

やわらかい唇の感触が、瞼に移り。

そこからすうっと、再び頬を伝っていく。

「詩季……この撮影が無事に終わったら……」

ゆっくりと降りてきた唇が、わたしの唇に重なった。

「伝えたいことが……あるんだ」


『……君の心の中にあるものを、俺は受け止めたい』

『ここにね、癌があって……取らないと命が危ないって。でも取ったら一生……子供が産めない身体になる。次に転移が見つかったら……覚悟、しなさいって』

『汐織……』

『あの夫婦みたいに……翼とずっと一緒にって、思ってた。それが叶わないなら、せめて……せめて最後は一番空に近い場所で……もう一度だけ、一緒に空を見たかった』

『汐織……ダイヤモンドリングを、一緒に見に行こう。俺が必ず連れて行くから。俺が汐織を守るから。何度だって……ふたりで空を見よう』

『翼……』

『約束するよ。君を守るために……一緒にいたい。この、同じ空の下で……また一緒に星を探そう』



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