夜空に瞬く星は、それだけで一面の天の川のようで。
わたしはその夜、汐織がそうしていたのと同じように。
車のボンネットにもたれて月を眺めていた。
当たり前のように、そこにあると思っていた未来を。
いつか、好きな人と結婚して。
子供を産んで、母親になって。
ふたりで歳を重ねて。
そしていつか星になったら、光の橋を渡って会いに行く。
そんな、誰もが夢見るようなこと。
突然、それを絶たれたら。
未来を失うかもしれないと言われたら。
わたしは汐織のように強く、孤独と闘いながら生きていけるだろうか。
怖くて、不安で、本当は泣き叫びたい。
嘘だと、全部悪い夢なんだと言ってほしい。
他に何も望まないから。
ただずっと、愛する人と一緒にいたいだけなのに。
どうか神様、お願い。
奇跡を起こして。
「詩季……?」
落ち着いた優しい声が降って来て。
視線を下ろすと、一磨さんが心配そうに眉を寄せる。
「……どうした?」
そう言ってわたしの前で立ち止まると、両手で包み込むように頬に触れる。
その姿がぼやけて見えていて。
初めて、自分が泣いていることに気づいた。
「……離れたくない……」
わたしの中に染み込んだ汐織の想いが重なって。
震える言葉を絞り出す。
それと同時に、溢れた涙がわたしの頬をふた筋、流れ落ちていく。
「詩季……離さないよ」
ギュウッと力強くわたしの身体を抱きしめてくれる、腕の温もり。
存在を確かめるように。
ふたりの鼓動を重ね合わせるように、きつく、きつく。
「詩季のことも、詩季の中にいる汐織のことも……受け止めるから。俺が必ず守るって、約束するよ」
「一磨……ありがとう……」
ゆっくりと少しだけ身体を起こした彼は、ふわりと微笑んで。
涙で濡れたわたしの頬にそっとキスをしてくれる。
やわらかい唇の感触が、瞼に移り。
そこからすうっと、再び頬を伝っていく。
「詩季……この撮影が無事に終わったら……」
ゆっくりと降りてきた唇が、わたしの唇に重なった。
「伝えたいことが……あるんだ」
『……君の心の中にあるものを、俺は受け止めたい』
『ここにね、癌があって……取らないと命が危ないって。でも取ったら一生……子供が産めない身体になる。次に転移が見つかったら……覚悟、しなさいって』
『汐織……』
『あの夫婦みたいに……翼とずっと一緒にって、思ってた。それが叶わないなら、せめて……せめて最後は一番空に近い場所で……もう一度だけ、一緒に空を見たかった』
『汐織……ダイヤモンドリングを、一緒に見に行こう。俺が必ず連れて行くから。俺が汐織を守るから。何度だって……ふたりで空を見よう』
『翼……』
『約束するよ。君を守るために……一緒にいたい。この、同じ空の下で……また一緒に星を探そう』