札幌から高速道路に乗って一路、富良野へ。
小1時間も走っていると、辺りは緑が広がる田園風景になる。
ICを下りるとそこは、一面の菜の花畑が広がっていて。
「わ……あ……キレイ……」
そう思わず口にした時。
わたしの肩にやわらかな重みを感じて、横を向くと。
(あ……)
目を閉じたままの一磨さんの頭が寄りかかっていた。
長いまつ毛と穏やかな寝顔。
肩から伝わってくる彼の温もりに、自然と笑みがこぼれる。
「……やっぱり、翼と汐織は本物だったんだな」
「え?」
声をかけられて、慌てて身体を起こそうとするわたしを、秦監督は穏やかな表情で制する。
「ああ、そのまま寝かせてあげなさい。昨日も遅くまで読み合わせをしていたんだろう?」
「え?あ……はい……知ってらしたんですね」
周りを見ると、みんな眠っているようで、起きているのは監督とわたしだけのよう。
彼の言葉に、昨夜のことを思い出す。
最後の撮影とあってつい熱が入ってしまい、一磨さんとふたり。
北斗七星が頭の真上に昇る頃まで、読み合わせを続けていたのだ。
「ふたりでゆっくり、ドライブすると良い」
フッと優しく微笑んで、ポツリと呟かれた言葉は、わたしの耳には届かなかった。
「詩季、行くよ?」
「うん」
ブオン、と一度大きくエンジンが鳴り、車はディーラーを出発する。
外国製のオープンカーは右ハンドルだったが、とても大きな車で。
とてもわたしには運転出来そうにない。
夏の色が濃くなりつつあることを感じる、太陽の匂いの混じった風が顔に当たる。
さすがにまだ半袖になるには寒くて、わたしはジャケットを羽織って来ていた。
「あれって……ラベンダー畑?」
「ああ……本当だ。平日でも人が沢山来てるな」
サングラス越しにわたしの指差す前方へと視線を流しながら、一磨さんは頷いた。
「詩季。本当に俺とで良かったの?」
「うん?」
「……ドライブの相手」
低くつぶやかれた声に、彼の横顔を覗くと、ふいとわずかに顔を逸らされる。
「もしかしなくても……やきもち妬いてくれたの?」
「や……妬くわけないだろう?詩季のこと、信じてるし」
珍しく焦った様子の彼の反応が愛しくて。
わたしはつい意地悪したくなってしまう。
「ふふっ。でも、顔が赤いよ?」
「うっ……」
彼が言葉を詰まらせたのと同時に信号が赤に変わり、車がゆるやかに止まる。