11

札幌から高速道路に乗って一路、富良野へ。

小1時間も走っていると、辺りは緑が広がる田園風景になる。

ICを下りるとそこは、一面の菜の花畑が広がっていて。

「わ……あ……キレイ……」

そう思わず口にした時。

わたしの肩にやわらかな重みを感じて、横を向くと。

(あ……)

目を閉じたままの一磨さんの頭が寄りかかっていた。

長いまつ毛と穏やかな寝顔。

肩から伝わってくる彼の温もりに、自然と笑みがこぼれる。

「……やっぱり、翼と汐織は本物だったんだな」

「え?」

声をかけられて、慌てて身体を起こそうとするわたしを、秦監督は穏やかな表情で制する。

「ああ、そのまま寝かせてあげなさい。昨日も遅くまで読み合わせをしていたんだろう?」

「え?あ……はい……知ってらしたんですね」

周りを見ると、みんな眠っているようで、起きているのは監督とわたしだけのよう。

彼の言葉に、昨夜のことを思い出す。

最後の撮影とあってつい熱が入ってしまい、一磨さんとふたり。

北斗七星が頭の真上に昇る頃まで、読み合わせを続けていたのだ。

「ふたりでゆっくり、ドライブすると良い」

フッと優しく微笑んで、ポツリと呟かれた言葉は、わたしの耳には届かなかった。


「詩季、行くよ?」

「うん」

ブオン、と一度大きくエンジンが鳴り、車はディーラーを出発する。

外国製のオープンカーは右ハンドルだったが、とても大きな車で。

とてもわたしには運転出来そうにない。

夏の色が濃くなりつつあることを感じる、太陽の匂いの混じった風が顔に当たる。

さすがにまだ半袖になるには寒くて、わたしはジャケットを羽織って来ていた。

「あれって……ラベンダー畑?」

「ああ……本当だ。平日でも人が沢山来てるな」

サングラス越しにわたしの指差す前方へと視線を流しながら、一磨さんは頷いた。

「詩季。本当に俺とで良かったの?」

「うん?」

「……ドライブの相手」

低くつぶやかれた声に、彼の横顔を覗くと、ふいとわずかに顔を逸らされる。

「もしかしなくても……やきもち妬いてくれたの?」

「や……妬くわけないだろう?詩季のこと、信じてるし」

珍しく焦った様子の彼の反応が愛しくて。

わたしはつい意地悪したくなってしまう。

「ふふっ。でも、顔が赤いよ?」

「うっ……」

彼が言葉を詰まらせたのと同時に信号が赤に変わり、車がゆるやかに止まる。



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