6

夜の帳が世界を包み、静寂が広がる午前2時。

春の夜の空気は、まだ冷たい。

「寒くない?」

ふわりと背中から伸ばされた腕に抱き寄せられて。

「あったかいよ」

心までじわりと温もりに包まれているような気分になる。

読み合わせを終えて開かれた食事会の後。

わたしは一磨さんに誘われてある場所に来ていた。

車を降りたその真上に広がるのは。

一面のプラネタリウム。

「キレイ……」

街から離れ、街灯すらないこの場所には。

手を伸ばせば掴めそうなほどの光が瞬いて見える。

視線を落とすと、目の前には漆黒の海。

ザザ……ン。

静かな波音が打ち寄せてくる。

ここは、ふたりで何度となく訪れた、思い出の詰まった海だった。

「……翼と汐織も、こんな風に星を眺めていたのかな……」

星の名前を持つふたりは、初めからそうと決まっていたかのように。

自然と惹かれ合い、恋に落ちた。

一緒に空を見上げ、星を見つめ、愛を育んでいく。

そして、わたしたちも。

不意に、腰に回されていた彼の腕が離れていって。

わたしの身体を優しく反転させると、またその胸に抱きしめられた。

「この映画に出演が決まってから、よく空を見るようになったんだ」

ゆっくりと穏やかな声が、わたしの耳元で聞こえる。

「詩季とこうしていられることも、出会えたことも……」

優しい海の流れのように、やわらかい温もりの中で、言葉が続けられる。

「奇跡のように小さな確率の中から生まれたことなんだって、思う」

「一磨……」

「俺はこの奇跡を、大切にしたい。詩季を……大切にしたい」

「わたしも……」

お互いを愛しむように。

存在を確かめるように。

重なり合った手が絡められて。

すぐ近くに、息遣いを感じる。

鼓動を感じる。

生きていることを感じる。

「詩季……愛してるよ……」

「わたしも……一磨……愛してる……」

数えきれないほどの言葉を。

伝えきれないほどの想いを。

ギュッと抱きしめて、わたしは目を閉じた。

心地よく胸の中に響く波の音。

数えきれないほどの光の中で、大きな大きな空に包まれながら、わたしたちは温もりを伝え合う。

夜を越えて、朝を迎えて。

星も、太陽も、雲も、全てを包み込んで。

そしてずっとそこで見守り続けてくれる空のように。

たったひとりの愛する人を守れる強さが欲しい。

ふたりの思い出を重ねていくように、重なり合った波が小さな飛沫を上げて。

その夜わたしは、彼の温もりの中で眠りについたのだった。



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