「……っつ!」
倒れた拍子に手を床についたのか、目の前にある龍馬さんの顔が苦痛にしかめられる。
「りょ、龍馬さんっ!」
慌てて起きようとするものの、わたしの上でうずくまっているその身体の重みで起き上がることが出来ない。
「だっ、誰か……」
人を呼ぼうとしたわたしの口は、何かに阻まれた。
驚きのあまり目を見開くと。
「…………」
龍馬さんの顔が、息の触れる距離でわたしを見つめている。
「なんちゃがやないぜよ。佐那が、庇ってくれたきに。このまま……ちくとばかり、ふたりでいてくれんか」
「龍、馬……さ……」
さっき、唇をかすめて行ったもの。
ほんの一瞬だったその感触が、まだ唇に残っている気がして。
疾うに消えてしまった温もりを確かめるように、唇にそっと触れる。
「……すまん。あんまりに佐那が可愛うて、つい……」
にしし、といたずらっぽく照れた笑顔を見せる龍馬さん。
「手……手は……本当に何ともない、んですか?」
渇いたような声が、わたしの唇からこぼれ落ちる。
「うむ。心配せんでえいぜよ」
「……よかった……」
ニッコリと笑った龍馬さん。
その、すぐ近くにある顔に、そっと手を伸ばす。
「もう、びっくりしたんですから……」
「ほんに、すまん」
龍馬さんの頬は、じんわりと温かかった。
「でも、良かったです……冗談が言えるくらいになって」
「佐那のお陰じゃ」
そう言うと龍馬さんは、床に肘をついて身体を支えながら、わたしを真っ直ぐに見下ろした。
「わしばかし守ってもろうちゅう気がするのう……佐那はまっこと、強きおなごじゃ。いよいよ惚れてしまうぜよ」
「も、もうっ。龍馬さんたら……守るって、約束したんですから……当たり前です」
頬がじんわりと熱くなるのを感じながら、わたしはそう口にした。
わたしを見下ろす龍馬さんの目がゆるめられて、ともすれば唇が触れてしまう距離でささやきが聞こえる。
「あんまし強うならんちょいてくれ。わしが側におる意味がなくなってしまうきに」
「ふふっ」
二人で顔を見合わせて笑う。
ただそれだけのことなのに、それが嬉しい。
この人の側に居るだけで、わたしは笑って生きていける。
龍馬さんの背中越しに、大きな咳払いが聞こえるまで、わたしたちはそのまま笑い続けていたのだった。
「全く……油断も隙もない……」