3

「どうじゃ、佐那。三邦丸からの眺めは」

あの、寺田屋で起きた事件から程なく。

わたしたちは薩摩藩船、三邦丸の上にあった。

「ふふ……龍馬さんは本当に海が好きなんですね」

はるか彼方に見える水平線を眺める瞳が、キラキラと輝いている。

その表情がとても穏やかで、優しくて。

でもどこか少し寂しげで。

わたしは龍馬さんの横顔を見上げながら、冷たい海風と波間に光を落とす太陽に目を細めた。

この船に乗ってから、こうしてわたしは龍馬さんに頼まれ、何度となく船縁からの海を眺めている。

「海を見ると、母を思い出してのう……海という字にゃ母がおると、教えてくれたんじゃ」

「母……あ、本当ですね」

小さく相槌を打つわたしを、目を細めながら龍馬さんは見る。

「家族、か……」

再び海へと向けられた視線。

こぼれ落ちた最後の言葉は、風にさらわれて行った。

龍馬さんのお母さんは、龍馬さんが幼い頃に亡くなっているという。

その面影を重ねながら海を見ているのだろう。

優しくて、でも切なさの覗く微笑みは、そのせいなのかも知れない。

わたしも、海を眺めながら、少しだけ。

母を思った。

ギュッと締め付けられる胸を抑えながら。

その時。

突然、ブワッと突風が船の真横から吹き付け、船体が大きく傾いた。

「おわっ!」

「きゃっ!」

わたしたちはバランスを崩して倒れそうになる。

「……龍馬さんっ」

咄嗟に、わたしは手が使えない龍馬さんを抱きしめて。

そのまま折り重なるように床に倒れ込んだ。



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