「紡」
穏やかな声がわたしの名前を呼ぶ。
「…潤」
カツ。
振り返ったわたしの隣に、彼は静かに並び、そしてスッと伸ばされた腕がわたしの腰に回される。
「…綺麗だ」
ささやくように落とされた言葉。
その、やわらかなまなざしの中に映るのは、彼が贈ってくれた、赤いドレスに身を包むわたしの姿。
12月31日、大晦日。
眼下に広がるのは、白い世界。
そして視線を上げると、闇の中に瞬く無数の光。
それはまるで、宝石箱をひっくり返したような、手をかざせば届きそうな、降って来そうなほどの星空だった。
「潤…」
彼の名前をそっと口にした時。
辺りがパッと闇に包まれた。
かすかに聞こえてくるのは、新たな年を迎える、カウントダウンの声。
「あ…」
淡いキャンドルの灯火。
窓ガラスに映し出されるふたつの影。
そのひとつが、ふわりと揺れる。
「紡」
腰にあった温もりが、わたしの左手を包み込む。
それをスッと持ち上げながら、彼は静かに告げた。
「来年も、その先もずっと…紡と新しい年を迎えたい」
そっと指先に触れたのは、彼のやわらかな唇の感触。
そして、ゆっくりと薬指に収められる、ふたりの未来への想い。
「潤…」
そこに輝くのは、空の欠片。
まるで本当に空に手を伸ばして取って来たような、ダイヤモンドと名づけられた星屑だった。
「紡…愛してる」
近づいて来た彼の顔が、瞼の裏に消えて。
唇に温もりを感じたその時。
ドーン、と大きな音が響き渡った。
「Happy New Year、紡」
触れ合ったままの唇が紡ぐフレーズ。
「Happy New Year…潤…」
わたしを抱き寄せる、優しい腕が背中を伝っていく。
そして、そっとファスナーに手がかけられた。
遠くで耳を貫く、新しい年の始まりを告げる音。
星空に彩りを添える、光の花。
愛しいその人の、温もり。
リビングのテーブルには1枚のカードとマスターキーが置かれていた。
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Invitation
New HONGO Hotel
Countdown Party
&
New Year's Gala
2010-2011
love Jun
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――End.