手を伸ばせば触れてしまえそうな、大きな月。
握りしめれば掴み取れそうな、満天の星空。
この時代に来た時に、置いてきた大切な全てのもの。
この空は、いつかどこかで、その大切なものたちと繋がっているだろうか。
わたしがここから見上げるこの空を、どこかで誰かも見上げているだろうか。
「…………」
言葉にならない想いを、初めて知った気がする。
誰かを想う気持ちは、言葉では語りつくせないことがあるんだ、って。
「……紡か?」
静かなやわらかい声は、わたしの背後から響いて。
ふわりと優しい温もりに、身体と心が包まれる。
わたしはその温もりを感じながら、ゆらいだ月の輪郭をそっと瞼の裏にしまった。
「どうかみんなが、幸せでありますように……」
願いを込めて、祈りを込めて。
みんなが誰かを想い。
ささやかな幸せの中にありますようにと。
「紡……」
わたしを抱きしめる腕が、それに応えるように。
ギュッと、力を込めたのが分かった。
何があってもこの腕を、離さないでいよう。
信じていよう。
守り続けよう。
この命がある限り、ずっと。
――――End.