カラカラカラカラ。
帯に挿した風車がくるくると回る。
ふわりと優しい風がわたしの頬を撫でて、思わず微笑んだ。
「以蔵……迎えに来てくれたの?」
その言葉に反応するように、カサリと草の揺れる音がして。
「お前……よく分かったな。気配を消していたつもりだが」
振り返ると、見開かれた赤い瞳がわたしを見つめていた。
「ふふっ。前に言わなかった?以蔵がどこにいるか、何となく分かるんだって」
「……ああ」
短い相槌の後、以蔵はフッと優しく微笑んで、わたしの頭をポンと叩いた。
「それに……風が吹いたから……」
胸元でカラカラと回る風車に視線を落とす。
それはさっき、以蔵の気配を感じた時からずっと、回り続けている。
「以蔵は本当に、風みたいだね」
「……そうか?」
「うん。優しくてあったかい風」
赤い鳥居の向こうに広がる空は、少しずつ赤みがかって来ている。
「……紡」
ふわっと、温かい腕に背中から包まれて。
少し驚きながら。
でも、その心地よさに身体から力が抜けていく。
「……少し冷えて来たから、だぞ……お前に風邪を引かれたら困るからな」
「……うん」
それが照れ隠しだということは、よく知っている。
不器用で、人斬りと言われているけれど。
本当はとっても優しい。
荒々しい台風にも。
優しく頬を撫でてくれる、そよ風にもなる。
それがわたしが好きになった岡田以蔵という人。
「ねえ、以蔵」
「何だ?」
「以蔵は、あったかいね」
「……そうか?」
「うん」
「よく分からん奴だな、お前は」
身体に回された腕と、耳元に聞こえる声が、以蔵がかすかに笑ったのを教えてくれる。
「うん。だってわたし、『はちきん』なんでしょ?」
いたずらっぽく言って見せると、はははっと笑い声が響いた。
「……そろそろ帰るか。日が暮れる」
「そうだね。お腹空かせて待ってる人もいるしね」
「ああ……ほら」
身体を離した以蔵が、わたしに向かって大きな手を差し出す。
その手に引かれて、わたしは歩き出す。
いつもの道を。
いつものように。
当たり前みたいな、この『いつも』が、いつも。
いつまでも。
続きますようにと願いながら。
――End.