「いらっしゃいませ」
丁寧にお辞儀をしたウェイターさんが、音も立てずシャンパンの入ったグラスをテーブルの上に置く。
「ただ今お料理をお持ち致します。しばらくお待ちくださいませ」
泪さんに連れられて来たのは、都内でも有名な高層ホテルの最上階にあるレストラン。
見るからにわたしが来られるような場所ではないことが分かる、高級レストランだ。
「泪さん、予約していてくれたんですか?」
わたしの問いかけに、彼は優しげな微笑みを浮かべて頷く。
「ああ、クリスマスだからな。ところで、いいな…その格好」
珍しく褒められて、わたしはホッと息をつくと微笑みを返す。
「…失礼致します」
会話が途切れたのを見計らっていたように、ウェイターさんがタイミング良く前菜とワインを運んで来た。
ゆらり、頭上のシャンデリアの淡い光が赤いワインの中に映り。
中央に置かれたグランドピアノで、ピアニストがやわらかな調べを奏でている。
優雅な仕草でグラスを掲げた彼は、普段よりも低い声でささやいた。
「少し早いが…メリークリスマス」
色気を含むその声に、わたしの胸は大きな音を立てる。
「…メリークリスマス」
触れ合う寸前で止められたふたつのグラス。
口にしたその味は、少し渋くて、けれど濃厚な甘みを含んだ、わたしを酔わせる彼そのもののようだった。
…夜は、穏やかに更けていく。
そしてわたしは東京の夜景を見下ろしながら、その夜。
月明かりの中で彼の熱に包まれながら眠りにつく。
「お前が本当に大人の女になった時に、ちゃんと聞かせてやるから…今は…」
ささやかれる言葉は、薄暗い部屋の空気に溶けていった。
「…愛している」
――End.