クリスマスのちょうど1週間前の土曜日の夜。

わたしは泪さんに指定された駅前のロータリーで彼の到着を待っていた。

(ロータリーっていうことは…タクシーで来るのかな?)

そんなことを考えながら、わたしは自分の姿を見下ろす。

(泪さんが喜ぶような服…って…)

『クリスマスくらいは俺を満足させるような格好をして来い』

事前に彼が言っていた言葉を思い出す。

いつもより念入りにメイクをして、髪は巻いてアップにしてみた。

コートの下は、ホルターネックの赤いマーメイドワンピース。

(泪さんが満足なんて言ったら、それこそ裸同然になっちゃうもの。わたしにはこれが精一杯…)

「紡。乗れ」

その時、わたしの目の前に滑り込んで来た1台の車の中から、耳慣れた声に呼びかけられた。

顔を上げると、半分開いた助手席の扉に手をかけ、運転席でハンドルを握っている泪さんの姿。

「…えっ」

しかし彼が運転しているその車、それはなんとパトカーだったのだ。

「早く乗れ」

(な、なんで…パトカー…?それに、泪さんが運転している姿を見るのなんて、初めてかも…)

そんなことを思いながら、わたしは慌ててパトカーの助手席に乗り込む。

(何だか…周囲からの視線を感じるけれど…気のせいだと思っておこう…)

「悪いな、小笠原のやつがまた発作を起こしやがった」

「あ…引きこもり、ですか?」

彼は確か今日は小笠原さんと一緒に安全教室に行っていたはずだ。

「…お疲れさまです」

前にも同じようなことがあったなと思いながら、わたしは座り慣れたパトカーの震動に身をゆだねる。

「ったく、後で藤守にコイツに乗って帰らせるか」

そう言いながら、泪さんの表情はどこか楽しげに見える。

(藤守さん…すみません。クリスマスプレゼント、前払いで頂きます)

わたしはこの夜の犠牲になるであろう藤守さんに心の中で手を合わせた。

「それにしても…」

横から伸びてきた長い指が、わたしのうなじをスッと撫でる。

「ひゃっ?」

思わず声をあげたわたしに、彼は不満そうな声を出した。

「何だ、その声は。どうせならもっとエロい声を出せ」

「え、エロいって…」

顔に熱が集まっていくのを感じながら、わたしはくすぐったい感触に身をよじった。

「いいな。その髪型」

「そう…ですか?」

「ああ。その白いうなじに噛みつきたくなる」

「かっ、噛みつく!?」

ハハッとわたしの反応を楽しむように笑う彼の姿。

それを横目に見ながらわたしは思った。

(何だか今日の泪さん、いつもより激しいような気がする…)



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