潤さんが連れて来てくれたのは、人もまばらな小さな神社。
誰かの家の敷地内なのか、純和風の日本庭園に繋がっている。
神社というよりもお寺というような雰囲気の場所で、あまり知られていない穴場なんだそう。
「ふたりで過ごすなら、静かな場所の方がいいだろ?」
私の手を取って一歩前を歩く潤さん。
「こんなに素敵な神社があるなんて知らなかった」
振り返った潤さんに笑顔を返すと、立ち止まって柔らかな笑みで見つめられる。
「紡の美しい振袖姿を他の男に見せるのはもったいない。それに…」
そう潤さんが口にした時、ちょうどお詣りの順番が回ってきた。
(いつももらってばかりの私が、潤さんにあげられるものは少ないかもしれないけど…
潤さんが少しでも心安らげる場所になれたらいいな。
要さん、どうか見守っていてください。)
「…紡」
今は亡き潤さんのお兄さんに思いを馳せながら、熱心に手を合わせていると、声をかけられていることに気づいた。
「紡、行くよ」
無言のまま再び離れていた手を繋がれ、あとを追う。
少しずつ頭上へと移動し始めた朝陽に彩られた静かな日本庭園。
さっきから言葉を発しない潤さんの横顔を見上げると、私を見つめていたらしい視線と繋がる。
ドキッと小さく胸が音を立てると同時に、その表情が少し真剣味を帯びた。
「何を願い事したの?」
「…願い事?」
真っ直ぐに私の視線を捉える潤さんの瞳。
「潤さんのこと…でも、内緒」
言いかけて、やっぱり自分の心の中にしまっておこうと思い立って、私はそう答えた。
「俺のことか…。俺も、紡のことを願ったよ」