「紡、明けましておめでとう」
「潤さん、明けましておめでとう!」
いつものように私の住むアパートの前に横づけしたリムジンの窓から、潤さんが顔を覗かせる。
この日のために少し着付けを習った私は、今日は黒地に大柄の牡丹が描かれた艶やかな振袖を身に纏っていた。
(ど、どうかな…)
緊張しながらリムジンに乗り込んだ私を潤さんは目を細めて穏やかな表情で見つめている。
「…自分で着付けたの?」
差し出された潤さんの手を取り、引き寄せられるまま隣に座った。
「う、うん…どう…かな?」
フッとかすかに息を吐き、潤さんの左手が私の頬に触れる。
「…とてもよく似合ってる」
眼鏡の奥の瞳に捉えられて、心臓が少しずつ早鐘を打つ。
ふいに真剣な表情で私の目を覗き込むと、意地悪そうに潤さんは言った。
「着付けを習ったのは…何かのため?」
「…えっ?」
潤さんの手が触れる場所が一気に熱くなるのを感じて、思わず反対側の頬を押さえる。
グイッと目の前に潤さんの顔が近づき、唇が触れそうな距離に心臓が破裂しそうに高鳴った。
「ね、誰のため?」
「えっと…」
「早く答えて」
「じゅ、潤さんに見てもらいたくて…」
言葉は潤さんの唇に阻まれ、最後まで言葉にならなかった。
「紡…綺麗だよ…とてもよく…似合ってる」
キスの合間に囁く潤さんの言葉に、少しずつ頭の中が真っ白になっていく。
潤さんの手は私の腰を引き寄せ、初日の出を窓ガラス越しに、私たちはキスを交わすのだった。