「紡……気分はどうだ?」

水の入ったグラスを差し出しながら、室長がわたしの顔を覗き込む。

「……はい……だいぶ……」

「……頑張ったな」

穏やかな微笑みに見つめられて。

温かい腕に抱き寄せられて。

今まで張りつめていた力が一気に抜けていく。

あれから結局、わたしは酔い潰れて眠るまで飲んで、気がつくと室長の部屋のベッドの中だった。

「悪かった。お前に怖い思いをさせて」

「泪、さん……」

優しい声に、わたしは思わず彼の胸に顔を埋める。

わたしを助けるために、自ら犯人を取り押さえてくれた。

その腕には、揉み合った時に出来た擦り傷がある。

彼が、苦渋の決断で、わたしにおとり捜査を命じたのは知っている。

仕事に私情を持ち込まない人が、最後までそれを渋ったのだから。

「無事で良かった……」

つぶやかれた言葉に、息が苦しくなるほどに胸が締め付けられた。

「泪さん……」

顔を上げると、熱をはらんで潤んだ瞳がすぐ近くにある。

「紡」

「あ……」

ゆっくりと塞がれる唇。

そっとベッドに背中を押し倒されて、熱い吐息がわたしの唇を支配する。

酸素が薄れて、頭がぼうっとする。

唇に感じていた熱が、頬から耳。

それから首筋に。

首筋から鎖骨へと降りて、露になった肌をゆっくりと撫でていく。

「泪……さん……」

わたしの唇から、熱に浮かされたように、彼の名前がこぼれ落ちた。

「何も考えるな。俺だけを感じていろ」

今夜、わたしは再び酔いしれる。

彼が与える、甘くて深い、渦に飲み込まれて。

彼の、その言葉の通りに。


――End.



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