「おい、ちょっと、白河。おま……」
ある日の夜。
ひとつ事件を解決したお祝いに捜査室のメンバーは居酒屋に集まっていた。
事件解決の安堵と、連日の朝帰りから解放され、わたしも珍しくお酒を口にする。
居酒屋に入って1時間半は経っているだろう。
隣に座っていた藤守さんが、突然わたしのグラスを取り上げた。
「白河。お前、もうやめとき」
「ちょっと藤守さん……返してくださいよぉ」
「アーカーン!お前、飲みすぎやって!」
「今日ぐらいいいじゃないですかぁ。いつも酔い潰れた誰かさんを介抱してるの、誰だか知ってますかぁ?」
わたしは彼の顔を下から覗き込みながら言った。
ふわふわと身体は軽く、寝不足の頭はぼんやりとしている。
「うっ!……そ、それはやな……」
言葉に詰まった彼は、ハアッとため息をついた。
「連続強盗事件が無事に解決したんですよー。わたしがいたから、解決出来たんですから……それなのに……」
「あー、分かった!分かったから泣くな!」
藤守さんは唸りながら取り上げたグラスをわたしの手に握らせた。
会社帰りの女性ばかりを狙った、連続強盗事件。
目撃者もなく、被害者自身でさえ、犯人の顔を見ていないという、不可解な事件だった。
連日の張り込みも埒があかず、ついには室長からこんな命令が下された。
『白河、オトリになれ』と。
怖かった。
捕まった犯人は、元プロサッカー選手。
逃げ足も速ければ、追ってくる足も速かった。
人気のない夜道にこだまする足音が、まだ耳に残っている。
分かっていてもあれだけ怖かったのだから、被害者の恐怖感は計り知れない。
わたしは安堵と、それ以上に恐怖から逃れるためにお酒を飲まずにはいられなかったのだ。