気がつくとわたしはパーテーションの裏側に引き込まれ、小笠原さんの腕に抱きしめられていた。

「ちょっ……お、小笠原さんっ」

離れようともがくものの、彼の腕にはますます力が込められる。

(もう……)

こうなったら、素直に従うしかない。

細く見えて彼は結構力が強い。

刑事なのだから、もちろんそれなりの訓練を受けているのだ。

そして何よりも、甘やかしてあげた方が早く収まる。

というのが、彼と付き合う中でわたしが導き出した『小笠原諒』研究結果だ。

「……諒くん、どうしたの?」

そっと問いかけると、彼はホッと息を吐き出して、わたしの肩にあごを乗せた。

「最近……紡ちゃんに触れてなかったから……」

消え入りそうな声。

熱いくらいの、わたしを抱きしめる腕。

何となく、笑みがこぼれ、わたしは口を開いた。

「じゃあ、今日……一緒に帰ろう?」

「……いいの?」

わたしの言葉に顔を上げた小笠原さん。

コクリと頷くと、その顔が緩められた。

「良かった」

「うん。だから早く戻ろう?」

そう言って彼に背中を向け、外に出ようとした瞬間。

「……ダメ」

「え?……っん!」

再び引っ張られた腕。

目の前に飛び込んで来た彼の顔。

唇に広がる熱い感触。

きつく抱きしめられ、痛いくらいの背中。

「んん……諒……く……待っ……」

必死に伝えようとする言葉は全て、彼の中に消えていく。

(諒くん……そんなに激しくされたら……)

食べ尽くしてしまうような熱いキスに、わたしの頭の中は真っ白になり、身体から力が抜けていく。

「小野瀬さんが戻って来るまで……もっと紡ちゃんを食べたい」

(諒くん、ずるい……)

深まる口づけに応えながら、きっとこれは小笠原さんの罠なのだと思った。


――End.



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