「白河。お前に特別任務を持って来た」
ニッコリと微笑みを浮かべながら、穂積室長がわたしの前に立つ。
(出た……悪魔の微笑……!)
わたしは背筋に悪寒が走るのを感じた。
コン、コン。
「失礼します……」
「ああ。やっぱり君か」
『鑑識室』の札のかかった白い扉を開けると、机に向かって作業していた小野瀬さんが顔を上げた。
「あ、あの……やっぱり、って?」
穏やかに微笑んで、小野瀬さんは立ち上がるとわたしに歩み寄る。
「君は穂積の切り札だからね」
スッと近づけられた顔。
女のわたしでも見惚れてしまうほどに、整った形をしている。
(……って、ダメダメ。何やってるんだろう、わたしってば)
わたしは慌てて彼から身体を離すと、奥に設置された休憩スペースに視線を向けた。
「すみません、小笠原さんを連行するようにとの特別任務を与えられているんです」
「……残念」
わたしの言葉に、彼はクスッと笑ってつぶやく。
そしてドアノブに手をかけながら付け加えた。
「どうぞ……俺はちょっと休憩に行って来るよ」
彼はそのまま扉の向こうへと消えて行った。
部屋の奥へと視線を向けると、カタンとかすかな物音が響き、パーテーションがゆっくりと開く。
「……紡ちゃん?」
そこから顔を覗かせたのは、案の定小笠原さんだった。
「もう……また引きこもって、どうしたんですか?」
「紡ちゃん、怒ってる?」
「怒ってます。わたしは小笠原さんのお守り役じゃないんですからね」
そう言って彼に近づくと、突然グイッと腕が引っ張られる。
「きゃっ!?」