―宝来和人―
「ん……」
小さくそう声を上げて、隣で眠っていた和人さんが寝返りを打つ。
「あっ……」
無意識なのだろうか。
ちょうどわたしの腰の位置にあった彼の手。
その手がぐいっとわたしを引き寄せた。
「…………」
向かい合う形でわたしを抱きしめたまま。
彼は穏やかな寝息を立てている。
カーテンの隙間からこぼれる光が逆光になって、その寝顔を映し出して。
はらりと落ちた彼の前髪を、そっと指で払おうとして、わたしは手を止めた。
その光景が、昨夜彼と観た映画のワンシーンのようで。
「……『目覚める朝は、あなたと』……」
思わず口にしたのは、映画のタイトル。
彼が、久しぶりにメガホンを執った、その作品。
「う……ん……」
その時、小さく身じろぎをした彼のまぶたが、ゆっくりと持ち上がった。
「ん……紡ちゃん……」
「和人さん……」
わたしの呼びかけに応えるように、フッと微笑みを浮かべて。
「おはよう……紡」
そう言いながら、彼は片手で前髪をかき上げた。
その仕草に、トクンと胸が高鳴る。
「やっぱり、いいな……」
寝起きの気だるさをかすかに含んだような、低い声でささやいて。
優しく目を細めて、わたしの頬を包み込む彼の手。
「キミと、こんな朝を迎えたくて……あの映画を作ったんだ」
「え……」
「毎日、こんな風に穏やかな朝を……紡となら……」
目覚める朝は、あなたと。
あなたのくれるキスで。
――End.