―桐谷翔―
「翔くん……」
「……紡、ちゃん?」
少し掠れた低い声が、もう一度わたしの名を口にして。
すぐ目の前にある栗色の瞳にわたしの姿が映る。
「……おはよ」
そう言って、ギュッと翔くんの腕がわたしを強く抱きしめた。
「なんか……いいな」
「……うん?」
「朝、目が覚めて……真っ先に紡ちゃんの顔が見られるってさ……」
「ふふっ……そうだね」
もう一度、抱き寄せられるままに、彼の胸に頬を寄せる。
トクン、トクンと響いてくる、優しい鼓動。
それが心地よくて、わたしはまた目を閉じた。
こんな穏やかな朝を、いつもふたりで迎えられたら。
そんなことを思う。
「……君がいま笑うなら、もう何も要らないんだ……」
「……翔くん?」
不意に、彼が口ずさんだメロディ。
わたしがさっき、口にしたその歌の続きを、ささやくような歌声が身体を通して耳に伝わって。
「紡ちゃん……君がいてくれたら、オレは他に何も要らないから……ずっと、毎日、オレと一緒に朝を迎えてくれる……?」
「……うん……」
「……結婚、しよう……」
――End.