カシャン。
ボッと火の点く低い音と共に、白い煙が立ち上る。
ふうっと、深く吸い込んだ空気を吐き出すと。
彼はテーブルに置いたシガレットケースを手に取った。
革製のそれは、この仕事を始めた時に買ったものだ。
イタリア製の一点もののアンティーク。
身体に刻まれた傷と、胸に着けた紋章。
そして、いつの間にか背負ってきた責任と。
それに比例するように、その革製のシガレットケースも、色に深みが加わっている。
フッとかすかに笑みをこぼして、彼はそれを内ポケットにしまった。
「アイツに出会ってから…か」
こうして煙草を口にする回数が減ったのは。
小さなつぶやきが静かな夜の空気に溶けていく。
もう一度、煙草をくゆらせて、彼はゆっくりと立ち上がった。
「…ん…昴、さん…?」
ふわっと鼻をかすめる甘いコロンの香りの中。
懐かしい煙草の匂いが混ざっている気がして、わたしは意識を浮上させた。
「…悪い。起こしたか?」
無意識にシーツを手繰り寄せながら、薄っすらとまぶたを開けると。
間近にわたしを覗き込む昴さんの顔があった。
「お帰りなさい…」
まだ覚めきらない意識の中、伸ばした手で彼の頭を抱き寄せる。
「紡…どうした?」
「…昴さん、煙草の匂いがする…」
やわらかい彼の髪が、頬をくすぐって。
同時にギュッと、シーツごと身体を抱きしめられた。