「はい、紡。コーヒーどうぞ」

コトリ。

およそランチやティータイムという言葉が似合わない鑑識室。

そこに広がる、芳ばしいコーヒーの香り。

彼の淹れてくれるコーヒーは、特別に美味しい。

「あの…小野瀬さん。手伝いって何をするんですか?」

いつの間にかわたしの知らないところで交わされていた約束。

ずっと気になっていたことを尋ねると、彼は少し考える素振りを見せて。

そしてスッとわたしに近づくと、指先で頬を撫でた。

「…まだ、昼休みだから、教えない」

目の前に迫った微笑みは、見とれるくらいにキレイで。

そして、色っぽい。

「小野瀬さ…んっ…」

わたしの言葉は、今度は彼の唇に吸い込まれた。

「紡」

キスの合間に落とされる囁きに、頭の芯が痺れて。

酸素が回らなくなった身体から力が抜け落ちていく。

「あ…葵…」

ようやく声を絞り出すと、わたしを激しく求め続けていた唇が離される。

「やっと呼んでくれた」

「…え…?」

ぼーっとした頭のまま、彼を見つめる。

「紡は真面目だね。ふたりきりの時くらい、俺は恋人同士に戻りたいんだけど…?」

「あ…」

嬉しそうな彼の顔を見て、わたしの鼓動は速くなる。

さっきのキスの感覚がまだ頭から離れない。

「ほら、ね…そういう顔をする…」

そう言った彼は、わたしのあごに手を添えて、唇を親指でなぞる。

「もっと…欲しい?」

ゾクリと震えるくらいの、甘い囁き。

「俺は…足りないんだけど…?」

「…葵…」

わたしの言葉を待っていたかのように。

熱い唇が降り注ぐ。

息も出来ないほどの、彼の愛情に飲み込まれて。

わたしはただ、身を委ねるのだった。


――End.



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