「……今は……今でも、死にたいと……?」

僕の話を黙って聞いていた彼女は、ひと言だけ、震える声で呟いた。

心の傷は、消えはしない。

この命がある限り。

だが。

「……君が……」

僕は不安げな彼女の頬にそっと手を伸ばし、その澄んだ真っ直ぐな瞳を覗き込む。

平和に育って来たのだろう。

未来から来たと言うこの娘の瞳には、穢れがない。

ならば、今僕たちが成そうとしている事も、未来の役に立っているのかも知れない。

「……君が側に居てくれる今日は、心穏やかに過ごせるよ」

頬に触れた僕の手に、白いやわらかい手が重ねられる。

「だから……共に生きてはくれないか?」

彼女と共に過ごす日々に、僕はほっと安堵し。

そして初めて生きたいと思えるようになった。

「これからは……生きてください……わたしがずっと、側に居ます」

震える唇が、陽を受けて輝く瞳の中の雫が、僕をしっかりと見据えている。

僕の、心の内も。

「ありがとう……」

君が居るから、僕は生きている。

生かしてくれる。

君のために生きよう。

いつこの命を差し出すことになろうとも、覚悟があった。

命を課するだけのものがあった。

だが。

全てを失った僕には、もう君しかいないから。

君を守るために。

君と生きるために。

僕は生きる。


吸い込まれそうな青空の下で、僕は君を抱きしめる。

そっと伸びてきた手が、僕の頬に触れて。

閉じたふたりの瞼から、こぼれ落ちた雫が、重なる唇を湿らせた。


――End.



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