「今、目を閉じたら……今度は、止まれないよ?」
一磨さんの微笑みの中の熱っぽい眼差しが、瞼の裏に消えていく。
一瞬の後、柔らかく触れる温もり。
わたしを抱きしめてくれる、いつもは優しい腕が、今日は熱くて。
男の人なんだと感じる。
求められるままに、何度も重なり合う唇。
「詩季ちゃん……好きだよ」
途切れ途切れに囁かれる、吐息混じりの言葉。
それがわたしの思考を痺れさせて。
溶かしていく。
「わたしも……一磨さんが……好き」
ずっと伝えたかった想いが、唇からこぼれ落ちる。
「……詩季ちゃん……目を開けて」
少しの間があって、一磨さんがそう言った。
ゆっくりと目を開けると、照れくさそうに顔を赤くした彼の微笑みがある。
「これからは……過保護なお兄さんじゃなく、一人の男として……詩季ちゃんのこと、守りたい」
真っ直ぐな瞳がわたしの顔を覗き込んで来て。
「……よろしく、お願いします……」
そう応えたわたしの言葉に、彼はホッと息を吐いてつぶやく。
「……やっと叶った」
「え?」
「大好きな女の子のこと……詩季ちゃんを、自分の手で守ってあげたい……ずっと、俺が……」
再び降りて来た唇が、わたしの心を甘く包んでくれる。
桜の見える窓際で、わたしたちはお互いを確かめ合うように、抱きしめ合うのだった。
窓の外では、いつの間にか降り止んだ雨の向こう。
濡れた桜がそっと風に揺れている。
――End.