コポコポと落ちるミルクティーの音と、部屋中に広がる甘い香り。
わたしは一磨さんの部屋のキッチンで、ソファでうたた寝をしているその姿を眺めながら、窓から射し込む暖かな光に目を細めた。
1月17日。
一磨さんの誕生日から明けて、翌日の午後。
穏やかな寝顔を見ていると、昨夜のことが蘇って来て、頬が熱くなる。
ふんわりと湯気の上るマグカップを手に、わたしはそっと彼の隣に腰を下ろした。
カチ、カチ、カチ、という時計の秒針の音と。
すう、すう、という彼の呼吸音が、優しく広がっていく。
(幸せ……だなぁ……)
側に置かれたテーブルの上には、小さなシロツメクサの花束が乗せられている。
それはここへの帰り道、お花屋さんの前でふと見つけたもの。
足を止めたわたしに、彼は今日のお礼にと言って贈ってくれたのだった。
わたしはひと口、ミルクティーを口に含んでマグカップを置くと、その花束を手にする。
鼻を近づけると、かすかに野の花の香りがわたしを優しく包んでくれた。
「……ん……詩季……?」
掠れた低いつぶやきと、長い腕がわたしを引き寄せたのは同時だった。
「一磨」
ゆっくりと、開いた目の焦点がわたしに集まる。
わたしの姿を捉えた彼の表情が、ふわっとゆるめられた。
それは、わたしの一番好きな、穏やかな微笑み。
心も、身体も、わたしを包む空気も、全てを優しくしてくれるまなざし。
「俺……」
少し状況を理解した彼が、申し訳なさそうに視線を落とす。
「ふふ……気持ち良さそうだった」
わたしはそう言って、彼の頬に手を伸ばして。
「おはよう」
再びわたしの姿を捉える瞳。
その瞳を見つめながら、そっと唇を寄せる。
やわらかい温もりが触れ合って、離れようとしたわたしの腰を、彼の腕が引き寄せた。
寝起きの身体は、わたしの体温よりも少し、熱い。
ゆっくりと包み込むように触れた唇から、その熱がわたしへと伝わって、全身に広がっていく。