クリスマスイルミネーションに彩られ、寄り添うカップルが行き交う街。
空からはひらり、ひらりと白い綿毛のような雪が舞い降りてくる。
わたしは待ち合わせ場所に立つ、求める人の姿に声をかけて駆け寄った。
「義人くん!」
手元の本に視線を落としていた彼はゆっくりと顔を上げる。
「……詩季ちゃん」
息を切らして立ち止まったわたしに、フワッとやわらかい微笑みを向けて彼は言った。
「そんなに慌てなくて良かったのに」
「ううん……だって……せっかく、チケット……取ってくれたから……」
ハァ、ハァ、と肩で呼吸をするわたしを見つめながら、ふと何かに気づいたように一瞬動きを止めた義人くん。
おもむろに手袋を外すと、その手をわたしに向かって伸ばした。
ふわり、冷えきってカチカチになっていた両手が温かいものに包まれる。
(あ……)
「……凍えてる。こっちも」
そう言って、彼の温かい右手がわたしの左頬にそっと触れる。
雑誌の撮影を終えて、そのままスタジオから走って来たのだ。
「義人くんの手、あったかい」
心地よい温もりと手の感触。
わたしは頬に触れた彼の手に自分の手を重ねて、少しだけ目を閉じる。
街の喧騒から、ほんの少しだけ、逃れるように。
「詩季ちゃん……」
目を開けると、照れくさそうに目元を染めて横を向く義人くんの顔があった。
「ふふ。ごめんね、ギリギリになっちゃって……行こっか」
わたしの言葉に頷き返した彼は、そのままわたしの手を引いて歩き始めた。
それがとても自然で、繋がれた手から彼の優しさが伝わって、身体中に広がっていく気がした。
わたしは彼に聞こえないように、小さくクスッと笑って、その腕に寄り添う。
かすかに肩が揺れて、歩調がゆるむ。
「…………」
義人くんは何も言わずに、再び歩き始めた。
その歩幅が、さっきよりも少しだけ、狭まった気がする。
(今夜だけは……堂々と恋人同士でいても、いいよね……?)
すれ違う人々も、今夜は誰もわたしたちに気づかない。
どこからか流れ聞こえるのは、恋人たちのためのクリスマスソング。
12月25日、クリスマスの夜。
今からわたしは、ただの普通の女の子。
義人くんに恋をする、どこにでもいる女の子に戻る。