「詩季ちゃん、今日の衣装すごく似合ってるよ」
「あっ、京介!抜け駆けするなよ」
「おい、お前ら……ごめんね、詩季ちゃん。いつもうるさくて」
「ううん、大丈夫」
12月24日、クリスマスイブ。
クリスマス特番の音楽番組の生放送の収録を終えて、控え室に戻ろうと廊下を歩いていた時。
共演していたWaveのみんなに声をかけられ、わたしは足を止めた。
(ふふ。この衣装……春が選んでくれたんだよね)
わたしは身につけていた白い羽根が織り込まれたドレスに視線を落とした。
「……詩季」
その時。
背後からわたしを呼ぶ低い声が響いた。
振り返らなくても分かる。
その足音。
その甘い声。
そして、肩に触れる温もり。
わたしの五感が敏感に彼を感じ取る。
「春」
わたしは振り返らずに、その名を口にした。
わたしの肩を抱き寄せながら、背後に立った春は、クスリと小さく笑う。
「……先を越された」
「え?」
顔を上げると、背後からわたしを覗き込む切れ長の瞳が妖しく揺らめいて見える。
「すまないが……」
そう、Waveのみんなに視線を送った後、春の手がわたしの背中をそっと押した。
「行こう」
「みんな……お疲れさま。またね」
春に肩を抱かれながら歩いていくわたしの背後で、誰かのため息が聞こえた。
「……すごいオーラ」
「やっぱJADEって、カッコイイよなぁ」
『柊木詩季 様』
わたしの名前が書かれた紙が貼られた扉の内側。
扉が閉まりきらないうちに、わたしは春に背後から抱きすくめられた。
パタン。
「その衣装……よく似合っている。とても綺麗だ」
「春……」