頬をなでる風は冷たく。
世界を包む空気は静まり。
見上げた空は高く、銀色の星が瞬いている。
1年を締めくくる、12月。
時は流れ、また新たな年がやって来る。
わたしはドキドキと落ち着かない心臓を持て余しながら、タクシーを降りて空を見上げた。
「……一番星」
まだ夕方4時半。
短くなった太陽の光の残像が、闇にスウッと溶けようとしている。
わたしはひとつ深呼吸をして、目の前にそびえるビルの中へ足を向けた。
コンコン。
「……はい」
カチャリと開けられた扉の中から顔を出したのは、夏輝さん。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
「詩季ちゃん。今日はこちらこそよろしくね」
頭を下げたわたしに、夏輝さんはニッコリと優しい笑顔を向けてくれる。
その背後から、スラリと長身の冬馬さんが顔を出した。
「お、詩季ちゃん、いらっしゃい。今日はよろしくね」
「はい。こちらこそ……シークレットゲストに呼んでいただいて……よろしくお願いします」
わたしは緊張に表情を少し強ばらせながら、もう一度深く頭を下げた。
12月25日、クリスマス。
JADEのクリスマスライブが行われるこの日。
わたしはシークレットゲストとして、彼らのステージに立つためにやって来た。
「……詩季ちゃん」
夏輝さんに招き入れられ室内に入ったわたしに、低くささやくような声がかけられる。
視線を上げると、穏やかに目元をゆるめた神堂さんがこちらに近づいて来た。