静かな住宅街の小さな公園。
「ねぇ、お兄ちゃんとお姉ちゃんは、フウフ?」
小さな女の子は無邪気な笑顔でそう訊ねた。
「えっ……!」
「えっ」
思わぬ言葉にわたしたちは同時に声をあげる。
(ふ、夫婦って……)
「……ううん。残念だけど、まだ違うんだ」
「ふぅん。まだフウフじゃないの?じゃあ、コイビト?」
クリクリと動く目が隣に座る一磨さんに注がれる。
夕陽を浴びて染まった頬が、さらに赤く染まっていく。
「……うん、そう。恋人なんだ」
照れくさそうに、でも穏やかな微笑みを浮かべる彼がまぶしくて、わたしは思わず目を細めた。
「……ふぅん。そっかぁ」
どこか残念そうにつぶやいた少女は、何かを思いついたようにスカートのポケットに手を入れる。
「じゃあ、これ、あげる」
そう言って一磨さんに向かって小さな手を差し出した。
その手の中には、おもちゃの指輪。
「これをお姉ちゃんにあげたら、フウフになれるんだよ。だから、お兄ちゃんにあげる!」
満面の笑顔を浮かべて、一磨さんの手のひらに指輪を乗せた少女は、満足そうに頷いた。
「あっ、もうすぐママが帰ってくる時間だから、またね!」
まるで風が吹き抜けるように走り去っていく。
(夫婦って……は、恥ずかしい……)
あとに残されたわたしたちは、恥ずかしさにお互いの顔が見られずにいた。