「おっ。これ、前に言ってた結婚情報誌のヤツじゃん。詩季ちゃんがモデルやるって……」
テレビ局に設けられたJADEの楽屋に冬馬の声が響く。
机の上に置いてあったのは、およそ彼らの楽屋には似合いそうもない一冊の雑誌だった。
その表紙を飾るのは、彼らが妹のように可愛がっている、詩季のやわらかい笑顔。
「へえ……詩季ちゃん、和装も似合うんだな」
冬馬の手に広げられたページを秋羅が覗き込んでつぶやく。
その目はスッと細められ、どことなく優しい眼差しが注がれている。
「…………」
雑誌に見入る冬馬たちに、奥の一角に座っていた春は視線を落とした。
そしてその、3日後。
神堂さんに呼ばれて、わたしは久しぶりにJADEがよく練習に使っているスタジオを訪れた。
以前会った時に新曲を作っていると聞いたが、それが完成したのだろう。
厚い扉をノックして、そっと開く。
「え?」
開いた扉の向こう。
真っ先に目に入った物に、わたしは驚いて言葉を失った。
目の前にある、それ。
白い天使の羽のような、繊細で美しいレースが折り重なって。
散りばめられた小さなパールがキラキラと天井からの光を反射する。
トルソーの先には、豪華な刺繍を施したマリアベール。
シンプルだけどゴージャスで、思わずため息を漏らしてしまうほどに美しい。
それは、ウエディングドレスだった。
「ああ。詩季……こっちにおいで」
わたしの気配を感じたのか、奥から顔を出した神堂さん。
彼はドレスの横に立つと優しく手招きをする。
それに吸い寄せられるように近づきながら。
わたしの口からはため息混じりの言葉がこぼれた。
「神堂さん……これ……きゃっ」
言いかけたわたしの腕が突然引っ張られ。
前のめりになったところを彼の胸が受け止めてくれる。
「俺の名前を……呼んで」
「えっ?あ……」
言葉の意味を察して、わたしは息を呑む。
「春……」
最近、仕事でしか会う機会がなかったせいか、つい苗字で呼んでしまっていたのだ。
「……ああ……」
ギュッとわたしを抱きしめる腕に力が込められる。
やわらかい温もりに、トクトクと耳元で鳴る彼の鼓動。
そして、頭上から再び声が降ってくる。
「キミのドレス姿を見て書いた……ウエディングソングを」