黒いカーテンで締め切られた室内。
取り付けられた間接照明が雰囲気を醸し出していて。
その中央には、1台のカメラと、それに向き合う一組の男女の姿。
「うん。いいね、その表情。翔くん、もう少し詩季ちゃんの腰を引き寄せて」
カメラマンにそう声を掛けられたのは、20代前半くらいだろうか。
サラサラの髪と大きな瞳が印象的な、優しい顔立ちをした青年。
寄り添った女性の腰に触れた手がかすかに揺れる。
しかし次の瞬間、その細い腰をグッと自分の方へと引き寄せた。
「そうそう、いいね!そのまま後ろから詩季ちゃんの腰を抱きしめる感じで腕を回して……」
そこではちょうど、アパレルブランドが出す新作ジーンズのポスター撮影が行われていたのだった。
翔くんの腕がわたしの腰に回り、後ろから強く抱きしめられている。
どちらかと言うと女の子みたいにキレイな顔立ちをしている彼。
その見かけによらず、腕の感触はとてもたくましくて。
わたしを包み込んでしまうくらいに広い肩幅と。
背中に密着した厚い胸板がわたしの鼓動をどんどん速めていく。
胸が熱い。
そして、腰に感じる腕も、耳のすぐ後ろで聞こえる彼の息遣いも。
この部屋の雰囲気も。
全てがわたしを焦がしていく。
半ば熱に浮かされたような感覚で、わたしは響き渡るシャッター音を聞いていた。
「……はぁ」
撮影が無事に終わって、控え室へと戻ったわたしは、大きく息を吐いて椅子に座り込む。
身体のラインがくっきりと表れるレザー地のTシャツと。
そしてこれは撮影用に用意されたものだったが、太ももまでの深いスリットの入ったジーンズ。
髪はストレートに下ろして、メイクは黒と紫を基調とした大人の雰囲気を感じさせるもの。
鏡に映る自分の姿を見ながら、腰に回された手の感触が蘇って来て。
落ち着いてきていた心臓がまた、ドキンドキンと強く打ち付け始めた。
(翔くん……かっこよかったな……)
そんなことを思った時。
コンコンと扉を叩く音が聞こえて。
そこに立っていたのは。