ピチャン。
「ん……」
カーテンの隙間からすうっと差し込んでくる光が、ちょうど瞼に当たって。
わたしはゆっくりと意識を浮上させた。
ピチャン。
屋根から水滴が落ちる音が、静まり返った空気の中に反響する。
昨夜、突然わたしたちを襲った嵐は、疾うに過ぎ去ったようだ。
ふと視線を隣に移すと、穏やかな寝息が聞こえる。
「……一磨……」
整った顔立ちに、朝陽が綺麗な陰影を落としていて。
思わず、見とれてしまう。
壁に掛けられた時計は午前5時を指そうとしていた。
こういう仕事をしていると、体内時計が備わるのだろうか。
今日は午前中は仕事がないというのに、いつものように目が覚めてしまった。
そろそろと布団を抜け出そうとしたわたしは、伸びて来た腕に引き戻される。
「……詩季……」
「あっ……」
腰に絡みつく長い腕が、ギュッとわたしを抱きしめて。
密着した背中越しに顔を彼の方へと向けると。
「う……ん……詩季……?」
ゆっくりと持ち上がった瞼の下。
彼の黒い瞳にわたしの姿が映し出された。
その自分の姿に、改めて昨夜のことを思い出し、カアッと頬が熱くなる。
「……おはよう?」
焦点が定まった瞳が、わたしに気づいてふわりと細められ。
スッと頬を包んでくれる彼の手に、ドキッと胸が大きく揺れる。
朝、目が覚めて、大好きな人に一番に会える幸せ。
火照る頬を感じながら、そのやわらかい、わたしにだけ見せてくれる微笑みに、自然と顔が綻ぶ。
「おはよう……一磨」
そう返すと、彼は少し照れたようにはにかみながら言った。
「詩季……もう少しこのままで……」
そうして、寝起きのまだ熱を持った手が、わたしの肩を抱く。
「嬉しいよ……詩季とこうして、一緒に朝を過ごせるのが……」
掠れた声と、ため息混じりの吐息が肌に触れて。
「あ……」
何かが背中を駆け抜ける感覚に、思わず声が漏れてしまう。
そんなわたしに、背後でクスッと笑う気配がして。
チュッと肩にキスが落とされた。
「か、一磨っ……」
「ははっ。詩季が可愛いから、つい……ね?」
「ね、って……もうっ」
その甘えたような声音と布団の中のやわらかな温もりに、何も言えなくなってしまう。
久しぶりに彼と迎える朝は、嵐の後で。
――End.