無数の報道のカメラと観衆の中に、まっすぐに伸びる赤い絨毯。
開いた扉の外から、静かだった車内を飲み込むように周囲のざわめきが押し寄せて来る。
「……詩季ちゃん、どうぞ」
外から差し出される手にわたしは自分の手をそっと重ねて。
光の中へと足を踏み出した。
コン、コン。
まだ熱を持ったままの頬を抑えながら、目の前にある扉をノックする。
少しの間があって開いた扉から顔を覗かせたのは。
「詩季ちゃん……いらっしゃい。どうぞ、入って」
わたしの姿に少しだけ驚いた表情を見せた後。
やわらかい微笑みを浮かべたのは、一磨さんだった。
「あ……他のみんなは……?」
Waveの休憩室として用意されたホテルの一室には、彼以外の姿はなくて。
「……気になる?」
「えっ?」
スッと近づけられた顔から微笑みが消えて、強い眼差しがわたしを射抜いた。
そのまま彼はわたしを挟み込むように手を壁について、行く手を塞いだ。
カチャリと、ドアの鍵が閉まる音が室内に響く。
「アイツらは……まだ下に居るよ。詩季ちゃんは……帰り?」
そう囁く彼の吐息がわたしの頬を撫でる。
ビクリと身体を震わせた瞬間、火照った頬にやわらかい感触が掠めて。
「詩季ちゃん。隙ありすぎ」
悪戯っぽく笑って、彼はそう言った。
「も、もうっ!一磨さんったら……」
熱くなる頬を抑えて、思わずそう声を上げる。
すると彼は諭すような声音で、わたしの言葉を遮った。
「ふたりきりの時は、呼び捨てで……ね?」
「あ……うん……一磨……」
まだ呼び慣れない、その名前。
付き合い始めて、もうすぐ半年になる。
嬉しそうに微笑んだ彼は、脱いだスーツの上着を椅子の背に掛けて。
ネクタイをスルッと解いた。
その仕草が、伏せられた瞳が、やけに色っぽく見えて、胸が高鳴る。
「詩季……おいで」
彼の背後にある大きな窓には、見事な夜景が広がっていて。
穏やかなその瞳に誘われて、彼の腕の中に引き寄せられる。