「え……夏輝さん?」
神堂さんに呼ばれて、JADEがいつも練習しているスタジオを覗いたわたしを迎えてくれたのは、夏輝さんだった。
驚いて固まったままのわたしにフッと微笑みを浮かべて。
彼はそっとわたしの背中を室内へと促し、扉を閉めた。
「ごめんね。春、用事が出来て……これ、渡すように頼まれたデモテープ」
そう言って彼は封筒を差し出す。
「あ……ありがとうございます。あの、他のみなさんは……?」
スタジオには、彼の姿以外に人影はない。
わたしが来るまで、一人でギターを弾いていたのだろう。
近くの椅子には彼の愛用のギターが立てかけられている。
「ああ……冬馬と秋羅は、春がいなくなった後すぐに帰っちゃって……」
「そうなんですね……じゃあ……わたしのために、残っていてくれたんですか?」
少し申し訳なく思いながら尋ねると、彼はふわっと笑顔を浮かべた。
「……もちろん。春の言付けがなくても、詩季ちゃんに、会いたかったし……」
「夏輝さん……」
優しい言葉と柔らかい微笑みが、わたしの心を満たしてくれる。
彼はわたしに近づくと、そのまま包み込むように背中に腕を回して、引き寄せた。
「久しぶり、だね」
耳元で聞こえる落ち着いた声。
ふたりきりで会うのは、どれくらいぶりだろう。
先週まで全国ツアーに出かけていたJADE。
こうして会うこと自体が本当に久しぶりだった。
「……お帰りなさい」
「うん……ただいま」
些細なやり取りが何だかくすぐったくて。
わたしたちは抱きしめ合ったまま、クスクスと笑ったのだった。