若葉の香りが心をくすぐる5月。

わたしは新曲のプロモーションビデオを撮影するため、とある教会に来ていた。

神堂さんが作ってくれた曲。

それは優しく包み込んでくれる、ウエディングソング。

あのファッションショーを見て、神堂さんが贈ってくれた曲だった。

「詩季ちゃん」

名前を呼ぶその声に、わたしの心臓は小さく揺れて。

ゆっくりと振り返ると。

「京介くん……」

そこに立っていたのは、タキシード姿の彼だった。

フッと、穏やかに細められる瞳。

そしてわたしの目の前で立ち止まると、彼はスッと手を伸ばし、わたしの頬を撫でた。

カアッと触れられた場所が熱くなるのが分かる。

「……詩季。すごく、キレイだよ」

突然、呼び捨てにされて、胸がトクンと音を立てる。

そんなわたしの反応を楽しむように、彼の指先はあごのラインをなぞり。

「き、京介くんっ」

「……何?」

クスッと笑った彼の瞳はとても色っぽくて。

脈打つ鼓動が速くなる。

その時。

「スタンバイお願いしまーす!」

スタッフの声が外から飛んで来て、ハッとする。

「やっぱりこの仕事……引き受けて良かった」

彼はそう囁くと、弄んでいた指でわたしの唇をスッと撫でて。

そのまま背を向けて立ち位置へと歩いて行った。



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