「やっぱいいよな……俺もまたサッカーやりてーな」
試合が終わって席を立った隼人は、伸びをしながらそう呟いた。
「ふふっ……隼人、すごく楽しそうだったね」
「そうか?」
「うん。隼人を見ていると、わたしもサッカーが好きになって来る」
わたしの言葉に彼はニヤリと満足気な笑みを浮かべて、肩を抱き寄せようとする。
「あ!いた!」
彼の手がわたしの肩に触れるのとほぼ同時に。
背後から聞こえて来たのは、さっきわたしたちの噂をしていた女の子たちの声だった。
「わー。本物だ。あの、握手お願いします!」
あっという間に騒ぎを聞きつけた人だかりに囲まれ、とうとう彼ともはぐれそうになる。
「隼人!」
「詩季ちゃん!」
そんなファンの人の声に混ざって、パシャッとフラッシュがたかれる。
気がつくと、試合を中継していた報道のカメラまでが輪に加わっていて。
「詩季!!」
一瞬、離れた手がグイッと引っ張られたと思ったら。
わたしは彼にしっかりと抱きしめられていた。
「勝手に撮るんじゃねーよ!あんたらの仕事は選手のインタビューだろ」
仕事で鍛えられた発声は辺りに響き渡って。
あれだけ騒がしかった周辺が静まり返る。
呆気に取られた様子の記者たちを横目に、彼はわたしの肩を抱いたまま。
人垣をかき分けて競技場を後にするのだった。
「……ねえ隼人……良かったの?」
家の近くまで送ってくれた彼に、わたしは尋ねた。
「あんな風に……撮られちゃって」
報道陣の前で、大胆にもわたしを抱きしめた隼人。
思い出すだけで顔が熱くなってしまう。
「ん?ああ……お前は嫌なのかよ」
少し不機嫌になる彼に、わたしは慌てて首を振る。
「ううん。そんなことないけど……大変じゃないかと思って」
「バーカ。心配すんな。むしろお前が俺のモンだってこと、知らしめてやるいい機会だったぜ」
そう言いながら、彼はわたしの顔に自分の顔を近づける。
「目、つぶれよ」
「ん……」
――End.