「……詩季」

カツン、カツン。

照明が落ち、再び静まり返った館内に、足音が響き渡る。

「隼人……?」

「待たせて悪い」

わたしの前で立ち止まった彼は、フッと優しく笑って。

「……詩季」

わたしの名前を呼ぶと、その場に片膝をつく。

「俺と……結婚してくれ」

言葉と共に差し出されたのは、赤い、100本の薔薇の花束。

「……隼人……」

その姿は、ほんの1時間ほど前、そこにいた涼真の姿に重なる。

「答えは?」

ニヤリと笑ったその表情に、胸がギュッと締めつけられて。

止まったはずの涙が、また頬を濡らして行く。

「そんなの、とっくに決まってるよ……」

わたしもまた、つぐみと同じ言葉を返して。

その瞬間。

温かい、力強い腕の中に抱きすくめられる。

「詩季……愛してる」

「隼人……わたしも……」

痛いくらいにきつくわたしを抱きしめる腕の中で、わたしたちはただお互いを求めて唇を重ねる。

3年越しの愛を実らせた涼真とつぐみの想いが伝染したみたいに。

ただ、温もりを感じたくて。

わたしは隼人の首に抱きついた。

「詩季……」

「……んっ」

熱い瞼と、唇と、腕と。

そして求め合う甘くて熱い息遣いが、わたしたちふたりの空間を支配していく。

身体から力が抜け落ちて、崩れそうなわたしを、彼の腕がしっかりと抱き止めてくれる。

「誰にもお前は渡さねぇ……俺だけの詩季だ」


――End.



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