無数のキャンドルの灯りが揺らめき。
それが反射して、空に瞬く星とも、指に輝くダイヤモンドとも、幸せの涙とも。
言葉では表せない、美しく幻想的な空間を映している。
パイプオルガンの音色と共に、わたしの声が空高く消えていって。
祭壇の前に向かい合うふたりの永久の誓いに耳を澄ませる。
あふれる光に包まれたそれは、氷で作られた教会。
2月14日。
わたしはこの日、ここで挙式をする恋人たちに、歌の贈り物を届けにやって来ていた。
毎年この季節になると現れるこの氷の教会は、明日撤去されてしまう。
バレンタインイベントの一環なのだそうだ。
少し前に出したバレンタイン向けの新曲のイメージがとても合っているからと、こんな大役を任されることになった。
幸せそうなふたりの姿をそっと後ろから見つめながら。
わたしは一磨さんのことを思い浮かべる。
手には、9本の白い薔薇をあしらった、小ぶりのブーケ。
花嫁さんの心遣いで、彼女の持つそれとお揃いのものを、お礼にともらったのだった。
テーブルの上に置いてあった携帯が鳴って、わたしはそれを取る。
挙式の様子を見届けた後。
わたしはすぐ近くのホテルに用意された控え室に戻って来ていた。
温かいミルクティーを飲みながら、ひと息をつく。
2通の新着メールの1つ目は、急な用件で迎えに来られなくなったとの山田さんからの連絡。
わたしはタクシーで帰ると返信をして、2つ目のメールを開いた。
『詩季ちゃん、お疲れさま。終わったら、教会の前で待っていて。』
メールの差出人は、一磨さんだった。
すっかり夜も更けて、星の瞬く空を見上げながら、わたしは教会の前で一磨さんの到着を待っていた。
ふいに、ふわりと温かい空気が揺れて。
「詩季ちゃん。お待たせ」
静かに現れた彼が、背中からわたしを抱きしめてくれる。
「……ううん。来てくれてありがとう。でも、急にどうしたの?」
「仕事が早めに終わったから……これも見てみたかったし」
そう言って、彼は目の前にある教会を見上げた。
今夜、本当なら駅前で待ち合わせをする予定だったのだ。
「詩季ちゃん、それ……ブーケ?」
彼の視線の止まった先には、今日もらったミニブーケ。
「うん。花嫁さんが用意していてくれたの。お揃いのブーケ」
「……そっか」
やわらかい微笑みと、手に触れた温もりに、心が包まれる。
「ちょっとだけ、中、見て行ってもいい?」
「うん」
わたしたちは手をつないだまま、重たい扉をゆっくりと開けた。