「わ……あ。キレイ……」
目の前に現れたのは、ライトアップされた小さな礼拝堂。
淡いオレンジ色一色で彩られた、シンプルだけど温かい、どこかホッとする。
そんな感じがする。
「バレンタインイベントの一環らしいんだけど……小さいからあまり知られていなくて。穴場なんだ」
そう言って彼は照れくさそうな笑みを浮かべる。
「ふふっ。でも、こんなに素敵な穴場……すごく、嬉しいです」
「よかった……気に入ってもらえたみたいで。じゃあ、中に入ろうか」
夏輝さんの後に続いて礼拝堂に入ると、ちょうど聖歌隊が歌い始めるところだった。
わたしたちは一番後ろの席に座って、しばらくの間、天使の歌声に耳を澄ませる。
そっと目を閉じて聞き入っていると、ふいに右手に温もりを感じて目を開けた。
彼の大きな温かい手が、わたしの手を包み込むように添えられている。
隣を見上げると、やわらかなまなざしがわたしを見つめていて。
視線が合った瞬間、それがフッと細められた。
わたしの大好きな笑顔。
コトリ、と心臓が音を立てる。
『慈しみ深き友なるイエスは 変わらぬ愛もて導きたもう
世の友われらを捨て去る時も 祈りに応えて労りたまわん』
聖歌隊の歌に合わせて、神父さんらしき人が何かを配っているのが見えて。
スッと立ち上がった夏輝さんが、神父さんから受け取って来たものは。
「薔薇……?」
赤いリボンのかけられた、1本の薔薇。
「バレンタインが近いから、特別だって……ほら、海外では男が何か贈り物をするって言うから……」
「あ……」
彼の言葉に、わたしはチョコレートの包みの入ったカバンをギュッと抱きしめる。
当日はお互いに仕事があって会えないから、今日持って来たのだ。
「詩季ちゃん……」
わたしの前に立った夏輝さんは、そっとその薔薇を差し出す。
「神父さんが教えてくれたんだ。1本の薔薇は……『あなただけ』って意味があるんだって」
「えっ?」
照れくさそうに頬を染めた彼は、ささやくような小さな声で続けた。
「俺の気持ち……受け取ってくれる?」
「……はい……あの、夏輝さん……わたしの気持ちも……受け取ってくれますか?」
差し出した小さな包みを見て、彼は嬉しそうに微笑んだ。
「もちろん」
――End.