「……ん……」

ゆっくりと目を開けると、目の前に春の心配そうな瞳がある。

「詩季……良かった……」

「は……る……」

視線を横に向けると、そこはスタジオの休憩室だった。

「気分はどうだ?」

ソファに横たわるわたしを覗き込みながら、枕元に座った春がわたしの頬に手を触れる。

「う……ん。大丈夫……」

温かい手の感触に、目を閉じると、彼はわたしの髪をそっと撫でてくれる。

「……顔色は、だいぶ戻ったな」

頬をスッとなぞる彼の長い人差し指。

「ごめんなさい……春にも、皆さんにも迷惑かけてしまって……」

そう言うと、彼の真っ直ぐな瞳がわたしを見つめ返す。

「いや……収録はもう終わったから。ただ……」

そこで言葉を切った彼は、視線を逸らして続けた。

「詩季……働き過ぎだ。俺が言えることではないが……君のことが心配で仕方がない……」

「春……」

もう一度わたしの姿を捉えた瞳が、切なく揺れる。

わたしは思わずその頬に手を伸ばした。

「……うん。明日は、休みをもらっているから……大丈夫」

答えながら、ゆっくりと身体を起こしたわたしを、彼の腕が包み込む。

「今日はもう離さない……」

「は、春……?」

グッと腕に力が込められ、目の前に迫った切れ長の瞳に射すくめられた。

「一緒に帰ろう」

囁かれた甘い言葉に、抗うことは出来ない。

無意識に頷いて、迫ってくる唇をそっと目を閉じて受け入れる。

甘い口付けが、わたしの思考を溶かしていった。


――End.



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