カサッ。

緩んだわたしの手から、小さな花束が床に落ちる音がして、ふたりの唇が離される。

染まったわたしの頬に彼はスッと指を触れてから、落ちた花束を拾い上げてくれた。

「はい……どうぞ」

「……ありがとう」

自然と顔がほころぶのを感じる。

何でもない普通のことが、ただの時間が、どこにでも咲いている小さな花が、優しくて、特別で。

それは彼が隣にいてくれるから。

わたしは彼がいてくれるだけで、いつでも、どこにいても、何をしていても、幸せになれる。

「あれ……?」

ふいに彼が、わたしの手にある花束を見つめながら、小さく声を上げた。

「……どうしたの?」

「ここ……これ、見てごらん」

彼の指差す先を覗き込むと、そこには。

「あ……」

言葉を失ったわたしの代わりに、彼は言った。

「……ね。四葉のクローバーだ」

白い綿毛のようなシロツメクサの隙間を埋めていたクローバーの中に、1本。

きれいなハートの模様をした四つの葉がある。

「ねえ……クローバーの花言葉、知ってる?」

「ん?」

「『幸福』」

「『幸福』か……うん。四葉のクローバーを見つけると幸せになれる、って言うのは……本当だね」

彼はそう言うと、わたしの目を覗き込んでくる。

「今、こうして、ただ君と一緒に過ごせるこの時間が……俺には何よりも幸せだから……」

「あ……」

それはついさっき、わたしが感じていた同じ想い。

思わずクスッと笑ってしまうわたしを、彼は不思議そうに見つめた。

「わたしもね、同じことを考えていたの」

一瞬、見開かれた瞳が、優しく細められて。

近づいて来た頬が、わたしの頬に触れる。

大きな手でわたしの髪をすくいながら、耳元にささやきが落とされる。

「これからも……こうしてふたりの時間を刻んで行こう……ずっと……」

「……うん……」

ねえ、一磨。

知ってる?

シロツメクサの花言葉はね、こう言うの。

『約束』

花はいつか枯れてしまっても、ふたりの約束は続いていく。

ふたりの刻む時とともに。


――End.



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