義人くんと共にやって来たのは、会場からほど近い神社。
「あんまり人が居なくて良かったね」
「そうだね」
小さなその神社は、地元の人しか知らないのだろう。
人の姿はまばらで、誰もわたしたちに気づかない。
ゴーン、ゴーンと空気を震わせる鐘の音。
そう、わたしたちは除夜の鐘をつきに来たのだ。
「そこ、気をつけて。段差が……」
「あっ」
メイクさんにお願いして、わたしは持って来ていた振袖を着付けてもらっていた。
慣れない着物に慣れない草履。
薄暗くて見にくい足元。
小さな段差に気づいた義人くんが声をかけてくれたものの、わたしは躓いてしまった。
(転ぶ……)
ギュッと目を閉じた瞬間、わたしの身体を抱きしめる温もりを感じた。
恐る恐る目を開けると、義人くんの顔がすぐ近くにある。
「……良かった。間に合った」
彼が吐き出した安堵のため息がわたしの頬をくすぐる。
「あ……ありがとう……」
この胸のドキドキは、転ぶかもしれないというドキドキなのか。
それとも、わたしの身体を支えてくれる力強い腕と、顔にかかる吐息のせいなのか。
彼はわたしをそっと抱き起こすと、わたしの手を取った。
「詩季ちゃん、危なっかしいから」
クスッと笑った彼は、わたしの手を引いて歩き出す。
彼の不器用な優しさと、さりげなく繋がれた手の温もり。
そして。
ゴーン……
ふたりで突く鐘の音。
身体に響き渡るその音色は、きっとふたりの未来に繋がっていく。
その音色はいつか、白い鳩と共に青空に高く高く舞い上がっていくのだと。
「あけましておめでとう、詩季ちゃん」
ささやく声がわたしの唇に触れた。
「あけましておめでとう……義人くん」
――End.