――第4部・JADE編
「第90回、紅白歌合戦の大トリを飾るのは……」
「JADEの皆さんです!」
総合司会を務めるアナウンサーの言葉に合わせて、宇治抹茶のふたりが叫ぶ。
パッと浮かび上がるステージの中に、神堂さん、夏輝さん、秋羅さん、冬馬さんが見える。
JADEの大ヒットナンバー『Angel』からなるメドレー。
さっき、トロイメライがその世界に惹き込んだ同じステージで、今度はJADEが彼らの世界に会場を染めていく。
3曲を歌い上げたところで、周りの照明が落とされ、神堂さんにスポットライトが当てられる。
彼はその中でそっとマイクをスタンドから外し、ゆっくりと口元へ近づけた。
「……2011年が、平和で幸福に満たされるように……」
伏せられたまぶた。
低くささやくような甘い声。
「最後にこの曲を……キミと共に……」
(……えっ?)
彼の言葉に合わせて、パッと辺りが光に包まれた。
「詩季ちゃん」
わたしの名前が呼ばれ、光の中に神堂さんの微笑みが浮かび上がる。
戸惑うわたしの背中を押してくれたのは、客席からの拍手と、わたしの背後に並ぶ出演者の笑顔。
そして、光の中で差し出された大きな手。
ふたつのスポットライト。
後押しするように響く夏輝さん、秋羅さん、冬馬さんの音。
わたしは無我夢中でマイクを握った。
出会ってくれた、時間を共にしてくれた、全ての人へのありがとうを込めて。
「詩季ちゃん……すまない、驚かせてしまって」
ステージを終えて、投票が行われる合間。
舞台袖で神堂さんは申し訳なさそうにわたしに声をかけた。
「いえ……ちょっとびっくりしましたけど……神堂さんと歌えて、とても楽しかったです」
「そう……それなら良かった」
スッと細められた目が安堵の色を見せて、そして彼の長い指先がわたしの首筋に触れる。
「あっ……」
突然の感触にビクッと身体を引くと、彼はクスリと笑ってわたしの腕を引き寄せる。
「……後れ毛」
吐息混じりに耳元でささやかれ、身体から熱が沸き上がった。
「今日はいつにも増して……キレイだ」