「…………」

一磨さんの手のひらにちょこんと乗せられた小さな指輪。

それが夕陽を受けてキラキラと光っている。

横を向いていた一磨さんが、ふいにベンチから立ち上がり、わたしに向き直った。

「……詩季ちゃん」

見上げると、まっすぐにわたしに注がれる真剣な表情と、低い声。

「……はい……?」

「本物の指輪は、今はまだ準備できていないけど……」

そこで言葉を切った一磨さんが、スッとわたしの前にひざまずく。

「詩季……これを受け取ってください。婚約指輪の代わりに」

「……はい」

わたしの返事に、一磨さんはフワッと笑顔になる。

その瞬間、沈む太陽がひときわ明るく最後の光を放った。

光の中に、再び立ち上がった一磨さんのシルエットが浮かび上がり、そっと手が差し出される。

手を引かれるままに立ち上がると、わたしの左手の薬指に、指輪がはめられた。

「ふふ……ぴったりだね」

「ああ」

優しく腰に回された腕にギュッと力が込められ、彼の胸に引き寄せられる。

「詩季……」

「……一磨」

甘いささやきに吸い寄せられるように、ふたりの唇が近づく。

「愛してる」

唇が触れる瞬間、彼が小さくそう言った。

触れ合う唇は少しずつ深まっていく闇とともに深くなっていく。

やがて、ふたりの息づかいだけが辺りを包んでいた。


――End.



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