「……大丈夫?」
「うん……ごめんね」
わたしは目元から流れ落ちる熱いものを止められないまま、人の居なくなった館内に座っていた。
「……良かったね」
ポツリとつぶやいた彼の手には、さっき見たばかりの映画のパンフレット。
わたしたちが初めて共演した、ドラマの原作となった本。
それが映画化されると聞いて、義人くんが公開初日の今日に合わせて、チケットを取っておいてくれたのだ。
その内容以上に、わたしは映画を見ながら、あの時のことを思い出して、涙が止まらなくなってしまった。
「そんなに泣かないで」
「だって……」
「もう……離したりしないから」
大きな手のひらがわたしの頭に触れる。
わたしの気持ちを、義人くんはちゃんと分かってくれている。
「詩季ちゃん」
頭に触れていた手がゆっくりと頬へ移動し、わたしの涙を拭ってくれる。
その温もりと目の前にある穏やかな微笑みに、わたしの心は少しずつ安らいでいく。
「義人くん……」
信じてる。
この温もりを。
信じられる。
あなただから。
わたしの姿を映す彼の瞳に笑顔を返して、わたしは膝の上に置いていたカバンに手を入れた。
「詩季」
ふいに名前を呼ばれ、視線を彼に戻した瞬間。
(あっ……)
スッと目の前に迫った彼の顔。
グッと腕が引っ張られ、一瞬の間を置いて、唇がやわらかいものに塞がれた。
それが彼の温もりだということを理解するまで、そう時間はかからない。
急激に速まっていく鼓動。
そっと彼の胸に手を当てると、そこはわたしと同じリズムを刻んでいる。
それが何だか心地よい。
「義人……く……」
触れ合った唇の隙間から、愛しいその名前が漏れた。
長い指の間をこぼれ落ちる髪。
わたしの身体をすっぽりと覆い隠してしまう、広い肩幅と厚い胸。
深く重なった唇は甘く、そして少ししょっぱい、涙の味がする。
「詩季……」
コトッ。
手から滑り落ちた、緑のリボンのかかった包み。
その中には、革のブックカバーが入っている。
会えない時でも、いつでも。
彼の側に居られるように、そんな願いを込めて……
――End.