首を後ろに向けると、肩越しに彼の瞳に捕らえられる。

細められた目と、スッとわたしの唇に触れる指。

「メイクも……」

触れていた指が、ゆっくりと唇をなでていき、カーッと頬が熱くなる。

「一番に伝えたかったんだが……先を越された」

「あ……」

(そうか、それでさっき……)

ふと視線を逸らした春の腕が緩み、わたしは身体ごと彼に向き直った。

「春の言葉が一番、嬉しいよ」

ギュッ。

腰に回された左手がわたしを引き寄せ、右手は開いて露になった肩からゆっくりと背中をなぞっていく。

「あっ」

ゾクッと身体に痺れが走る。

彼はわたしの首筋に顔を埋めると、低くささやいた。

「ただ……肩が少し出すぎなのは、失敗だった」

吐息のような艶やかな甘いささやきが肌をなで、やわらかな唇が肩に触れる。

わたしは思わず声を漏らした。

「あっ……は、春っ」

「何?」

肩に触れた唇がかすかに動き、低くかすれた声が隙間から押し出される。

「だ……め、だよ……」

霞みがかり始めた意識の中でわずかに抵抗すると、意外にもすんなりと春の手は離れていった。

(はぁ……)

残念なような、ホッとしたような、複雑な気持ちでこっそりとため息を吐き出した時。

「あ……」

自分の胸元に光るものを見つけて、わたしは顔を上げた。

「春……これ……」

目の前には、ふわりと穏やかに微笑みを浮かべる春の顔があった。

「気づいてくれた?……クリスマスプレゼントだよ」

わたしの胸元に光るのは、スワロフスキーが一粒、キラリと光るクロスのペンダント。

「そのドレスによく合っている」

「春……」

「キミが……なかなか気づかないから……つい、意地悪をしてしまった。でも……」

そこで一度言葉を切った春は、再び肩に唇を寄せ、チュッと小さく音を立てた。

「あのまま気づかないでいてくれた方が……良かったかな」

艶を含むその瞳に、心を奪われる。

心臓が早鐘を打つ。

フッと微笑んだ春は、わたしの肩に壁に掛けられていたファーのショールをかけた。

「……行こうか」

「えっ?でも、衣装を着替えないと……」

引かれた手を離そうとすると、彼は振り返ってクスリと笑った。

そして、スッと耳元に唇を寄せて、ささやいた。

「そのドレスも……キミへのプレゼントだから」

「えっ……」

「今夜は俺のためだけに……歌って」


――End.



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