「今日、ここに招待したのは……俺たちを支え、応援し、見守り、時には共に音を奏でた……そんな人たちばかりです」

ゆっくりと神堂さんは舞台袖で待つ、わたしに向かって歩いてくる。

「……そして、今日はその大切な人の中のひとり……」

ステージの脇にあるカーテンを挟んで、足を止めた神堂さんとわたしは見つめ合う形になった。

彼はフッと穏やかな笑みを浮かべると、ゆっくりとわたしに向かって右手を差し出し、マイクにささやいた。

「……詩季ちゃん」

わたしはまるで呪文をかけられたように、彼の甘いささやきに吸い寄せられていく。

彼の紡ぐ言葉、吐息、仕草、まなざしの全てが、その場にいた誰の心をも痺れさせたに違いない。

そんな彼に連れられてステージの中央に立ったわたしを、客席は温かな拍手で迎えてくれた。

「……俺たちの大切な仲間で、そして可愛い妹のような存在である詩季ちゃんに、少しの時間、この場を預けます」

夏輝さんの言葉を合図に、ステージ上に風が吹き、置かれていたキャンドルの火がパッと消された。

「じゃあ、詩季ちゃん。俺たちの休憩中を、よろしくね」

再び広がる暗がりの中で、夏輝さんの小さなつぶやきが背後で聞こえ、ポンと背中を叩かれた。

ゴクリ、極度の緊張で喉が鳴る。

わたしは目を閉じて、フウッとひとつ、深呼吸をする。

『頑張って。俺もキミの歌声を聞いているから』

今朝、一磨さんがくれたメールの内容を思い出す。

彼は今夜、仕事があると言っていたから、実際はここにはいないはず。

それでも、わたしの歌を聞いていると言ってくれたことが嬉しかった。

そしてなぜだか本当に、彼が側で見ていてくれるような気がして、激しかった鼓動が少しずつ落ち着いてくる。

わたしは意を決して、目を開けた。

「本日はこのような特別な場所にお招きいただき、ありがとうございます……重大な役割をいただいて大変恐縮ではありますが、少しの時間、お付き合いくださると嬉しいです」

辺りを包む空気がやわらかい。

わたしはその穏やかな優しい空気を深く吸い込んで、声に乗せた。



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