「Merry Christmas……特別な夜の、特別な思い出に」
暗闇の中からそんな神堂さんの甘いささやきが空気を震わせる。
わたしは震える手でマイクを握り直した。
“Amazing grace how sweet the sound.
That saved a wretch like me.
I once was lost but now am found,Was blind but now I see.”
照明の落とされたライブ会場。
用意されたテーブル席にはキャンドルが置かれている。
その淡い灯りだけが今、この空間を映し出している。
今夜はここでも、キャンドルナイトだ。
わたしの歌声がすうっと闇に溶けて、ホッと息をついた瞬間。
わたしの背後にあるステージの幕が開いた。
(わあ……キレイ……)
無数のキャンドルの灯りに囲まれたステージの上で、神堂さんがこっそりとわたしの方へ視線を送ってくれる。
それを見届けた後、お客さんに分からないよう、わたしは舞台袖に下がった。
(はぁ……良かった。まずは成功……かな?)
覗くステージの上から届く、神堂さんの歌声。
クリスマス用にアレンジされた曲が、静かに胸を熱くする。
“今すぐに届けたい Angel 僕のこの歌を
君となら 羽ばたける この空を
迷いもせず もう一度
何もかも失くしても Angel 君を守りたい
この愛を 君だけに 歌うから
もう涙は いらない”
「……特別なこの夜に、この場に集ってくれた、俺たちの大切な人たち……いつも、ありがとう」
やがてMCになり、汗に濡れて落ちて来た前髪をグイッとかき上げながら、神堂さんが語り始めた。
その仕草と横顔。
伏せられた目が、キャンドルの灯りに照らし出され、ドキッと胸が鳴る。